卵巣がんの起源部位は卵管であることが示唆される

小規模研究が概念の証明とより幅広い研究への支持を示す

一部の研究者らはこれまで、最も一般的な型の卵巣がんは、卵巣を子宮とつないでいる細い繊維性の管 である卵管に由来する可能性があると考えてきた。今回、9人の女性を対象とした研究結果により、多くの卵巣腫瘍のゲノムの起源が実際には卵管にあることが示された。この研究結果は、卵巣がんの発生源についての洞察と、卵巣がんの予防および治療介入のための新たな方法を提供する可能性を示している。

卵巣がんは、女性のがん死亡の第5位の死亡原因である。一般的にほとんどの患者は進行した状態で診断され、10年を超えて生存する患者は30%未満でしかない。

「卵巣がんの治療法は、この何十年間であまり変わっていません。その理由の一つは、われわれがこのがんについて、間違った病巣組織を研究しているせいかもしれません」と、本研究の共同主任研究者で、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの腫瘍学教授であるVictor Velculescu医師・医学博士 は話した。「大部分の卵巣がんの起源が卵管であるというわれわれの知見が大規模な研究により確認されれば、卵巣がんリスクを有する患者のためにこの病気を管理する方法が大きく変わる可能性があります」。

Nature Communications誌の10月23日号に掲載されたこの新たな研究では、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターとボストンのダナファーバーがんセンターの研究者らが、正常細胞、卵巣がん、他の場所に広がった転移巣、さらに卵管内で見つかった小さながん の組織サンプルを採取した。卵管内の小さながんには、「p53シグネチャー」と呼ばれる単細胞層のがん、および漿液性卵管上皮内がん、すなわちSTIC病変が含まれていた。すべてのサンプルは、高異型度の漿液性卵巣がんと診断された5人の患者から採取した。このタイプのがんは、米国で毎年卵巣がんと診断される推定22,000人の女性の4分の3を占めている。

研究者らはまた、卵巣がんと乳がんに関連するBRCA遺伝子の変異を有する、また一人は骨盤内腫瘤があるという理由で、卵巣および卵管の予防的除去を受けた4人の女性の漿液性卵管上皮内がん病変および正常細胞からサンプルを採取した。

いくつかのがんは単細胞層の厚さしかないほど非常に小さかったため、ジョンズホプキンスのEniko Papp博士研究員と、ダナファーバーのS. Intidhar Labidi-Galy博士研究員が、Velculescu医師および、共同主任研究者で元ダナファーバーがん研究所、現ペンシルベニア大学のRonny Drapkin医師・医学博士とともに、隣接する正常細胞のより大きな集塊から、比較的少ない数のがん細胞を分離する方法を開発した。

研究者らは、これまで多数のがん種との関連が示されてきたp53遺伝子におけるミスを含む細胞を強調するために、小さながんを染色した。その後、研究者は赤外線レーザーを用いて、がん細胞の染色で強調された部分を剥がした。次に、すべてのサンプルを対象に、既知のすべての遺伝子について、全エクソームシーケンスとして知られる作業を実行し、細胞のDNA内のタンパク質をコードする遺伝子の設計図カタログを作成した。このアプローチがなければ、ゲノムシーケンシングの結果は正常細胞のDNAに埋もれてしまい、がん関連のDNAエラーを検出することは難しいとPapp氏は述べた。

ジョンズホプキンスとダナファーバーの研究チームはその後、1つのDNA分子が別のDNA分子に切り替わる領域や、特定の染色体のDNAの大きな領域が変化した領域などを含むDNA配列の誤りを検索した。

その結果、9人すべての患者について、早期段階の漿液性卵管上皮内がん病変を含む各人の組織サンプルは、がんに関連するp53遺伝子が位置する第17染色体の領域がまったく同じように欠損していることが示された。それは、p53遺伝子の「ミスプリント」、あるいは欠陥が卵巣がん発症の初期段階であることを示唆している。

また9人の患者全員が、BRCA1およびBRCA2遺伝子の一方または両方を含む染色体の一部を欠失していた。これらの遺伝子は長い間、遺伝性および散発性の乳がん、卵巣がんと関連づけられてきた。患者のうち4人は、PTENと呼ばれる別のがん関連遺伝子が存在する染色体10を欠失していた。

このゲノム研究の結果を用いて、研究チームは変異が起こりやすいがん細胞の画分を推定した。元のがん細胞の方が、その後継細胞よりも変異が少ないであろうという推論から、5人の女性の卵巣がんについて系統樹を作成した。その結果、それぞれの女性のがんは、卵管内の漿液性卵管上皮内がん病変または初期の病変のミスから始まっているという結論に至ったと言う。卵管近くの卵巣に留まったがん細胞、および転移部位には、さらなるDNAミスが見られた。全体的にこれらの分析は、卵管内での卵巣がんの発生に必要な重要なDNA変化をすでに含んでいる初期腫瘍からの播種事象の結果、卵巣においてがんが進行したことを示唆していると、研究者らは述べた。

本研究の患者のがんが形成されるまでに要したと考えられる期間を特定するため、研究者は診断時の患者の年齢、当該患者のがんに含まれる変異の総数を考慮して、複数の統計モデルを使用した。その結果、解析された患者間では、平均6.5年以内に漿液性卵管上皮内がん病変から卵巣がんに進行したことが示された。

しかし、がんが患者の卵巣に達すると、転移性疾患への進行は平均で2年以内と、急速に起こったものと推定された。「この結果は、われわれが臨床で目にしていることと一致します。新規に卵巣がんの診断を受けた患者の多くは、がんがすでに広がった状態にあります」と、Velculescu医師は語った。

また同医師は、さらなる研究で今回の知見が検証されるまでは、診療方法があまり変わらない可能性を指摘している。現在、がんの発症原因になる遺伝性のBRCA1およびBRCA2変異を持つ女性について、卵巣の代わりに卵管を除去する臨床試験が実施されている。Velculescu医師はまた、卵管から発生するという理論は、一般的でない他のタイプの卵巣がんには適用されない可能性もあると指摘する。

今回の研究結果が確認されれば、一部の女性は、卵巣切除および、心臓や他の疾患のリスク増加につながる女性ホルモンの損失を避けられる可能性がでてくると、Velculescu医師は述べた。「漿液性卵管上皮内がん病変から転移性疾患になるまでの期間があるということは、卵巣がんの早期発見のためのリキッドバイオプシー(血液などの体液による検査) など、新たなスクリーニング・アプローチの重要性を強調しています」と同医師はつけ加えた。

その他のジョンズホプキンスの共同研究者は以下のとおりである。Dorothy Hallberg, Noushin Niknafs, Ie-Ming Shih, Tian-Li Wang, Robert Kruman, Vilmos Adleff, Michael Noe, Rohit Bhattacharya, Jillian Phallen, Carolyn A. Hruban, Jillian Phallen, Carolyn Hruban, Laura D. Wood, Robert B. Scharpf, and Rachel Karchin.

その他のダナファーバーの共同研究者は以下のとおりである。
Marian Novak and Cecile L. Maire; Michelle S. Hirsch, Douglas I. Lin and Michaela Bowden from Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School; Lauren Schwartz from the University of Pennsylvania; and Jean-Christophe Tille from Geneva University Hospital; Ayse Ayhan from Seirei Mikatahara Hospital; and Siân Jones from Personal Genome Diagnostics.

この研究は以下の団体から資金提供を受けた。
Dr. Miriam and Sheldon G. Adelson Medical Research Foundation, the Commonwealth Foundation, National Institutes of Health’s National Cancer Institute (CA121113, CA006973, CA083636, CA152990, CA200469), the Department of Defense, the Honorable Tina Brozman Foundation for Ovarian Cancer Research, the SU2C-DCS International Translational Cancer Research Dream Team Grant, the Foundation for Women’s Wellness, and the Richard W. TeLinde Gynecologic Pathology Laboratory Endowment.

Velculescu氏はPersonal Genome Diagnostics社の創立者であり、同社の科学諮問委員会および取締役会のメンバーである。同氏は、Personal Genome Diagnostics社の株を所有しており、ジョンズホプキンス大学の方針下で一定の制限を受けている。取り決めの条件は、同大学の利益相反に関する方針に基づいて管理されている。

図版内の用語
p53シグネチャー
STIC病変
卵管がん
卵巣への播種
遠隔転移への播種

ゲノム研究は、ほとんどの卵巣がんが卵管に由来することを示唆している。
Credit : Carolyn Hruban

翻訳担当者 片瀬 ケイ

監修 東海林 洋子(薬学博士)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

卵巣がんに関連する記事

HER2標的トラスツズマブ デルクステカンは複数がん種で強い抗腫瘍効果と持続的奏効ーASCO2023の画像

HER2標的トラスツズマブ デルクステカンは複数がん種で強い抗腫瘍効果と持続的奏効ーASCO2023

MDアンダーソンがんセンター(MDA)トラスツズマブ デルクステカンが治療困難ながんに新たな治療選択肢を提供する可能性

HER2を標的とした抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステ...
進行卵巣がんにオラパリブ、デュルバルマブの追加投与は無増悪生存期間を延長の画像

進行卵巣がんにオラパリブ、デュルバルマブの追加投与は無増悪生存期間を延長

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)ASCOの見解「卵巣がんの早期発見法はなく、3分の2以上の患者が、再発のおそれが高い進行した状態で診断されます。さらなる研究が必要ですが、治...
ARID1A変異陽性卵巣がんにスタチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用を検討の画像

ARID1A変異陽性卵巣がんにスタチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用を検討

【MDアンダーソンがんセンター研究ハイライト 2023/03/29】より前臨床卵巣がんモデルにおいて、スタチン併用療法が抗腫瘍効果を向上させるがん抑制因子ARID 1 Aの不活...
低異形度漿液性卵巣がんの分子特性を包括的に解析の画像

低異形度漿液性卵巣がんの分子特性を包括的に解析

【MDアンダーソンがんセンター研究ハイライト 2023/01/11】より低異形度漿液性卵巣がんの包括的な分子プロファイルを解析した研究低異形度漿液性卵巣がん(LGSO...