有害事象報告システムのビッグデータ化が情報の分類に有用な可能性

ビッグデータメソッドが進展をもたらす可能性

病気を治療し、われわれの生命を救うことにすら依存している多くの医薬品は、利益と共に潜在的に重大なリスクを引き起こす。米国疾病予防管理センターのデータによれば、米国では薬の副作用により年間4万人が死亡していることを示しており、その数は交通事故による死亡数に匹敵するという。

2人のUCSF薬学部教授は研究と臨床で副作用の確認と最小化に焦点を当てており、その改善の方法を正確に提示した。

潜在的な副作用を予測することは、困難な作業である。広範にわたる試験の後であっても、一部の有害作用は、広い層の患者が内服するまでほとんど現れないと臨床薬学部教授、Marilyn Stebbins薬学博士は述べた。「臨床検査は、一般の人々には行なっていません。管理された状況下で少人数を対象に行われます」と彼女は指摘した。

数十年の間、Stebbins教授は多くの低所得層患者に行われる外来診療において、治療の管理をすることで、チームの一員として医師を手助けしてきた。他の多くの医療従事者と同様に、彼女は新たな意図せぬ反応の報告や既知の副作用の評価のため、米国食品医薬品局有害事象報告システム(以下FAERS)を拠りどころにしている。医師、薬剤師、看護師、他の医療従事者がデータベースに寄与している。また患者、家族、弁護士も報告書を提出できる。

「FAERSは宝の山かもしれないが、天然の金塊は、情報がれきの下に埋まっていることが多い」―Brian Shoichet博士

しかし、FAERSは年間100万件を上回るレポートが増えている一方、データは整理も標準化もされておらず、さらに薬を化学構造に関連付けていない。薬化学部教授Brian Shoichet博士により共同で主導され8月8日付でオンラインeLife誌に掲載された新しい研究によれば、データベースをビッグデータプロジェクトとして扱うことで、すべての雑多な情報を分類する方法を提供できる。

「FAERSは宝の山かもしれませんが、天然の金塊は、情報がれきの下に埋まっていることが多いので、データベースの可能性を理解するためにはそのがれきを取り除く必要があるのです」とShoichet 博士は述べた。

event reporting graph

70万件を超えるレポートのコンピューター解析は、Shoichet博士 およびノルバティス前臨床安全性プロファイリング世界責任者Laszlo Urban医学博士の指導のもと、博士研究員であるMateusz Maciejewski博士により主に遂行され、研究者らはデータベースのレポートのおよそ1パーセントが同じ患者の同じ有害作用に関する重複した項目であり、副作用の重大さをより強調する可能性がある問題であることに気付いた。

さらにレポートの5パーセントは疾患―あるいは致死的疾患による死亡でさえ―誤って薬物治療による副作用として列挙されていることにも気付いた。たとえば、FAERSはサリドマイドが多発性骨髄腫という有害な副作用に関連していることを示しているが、実際に多発性骨髄腫の治療に使用されている。予想されたことだが、死亡そのものは薬の副作用を通しての実際の発現率に比べ、過剰に報告されている。そしてあまり深刻ではない副作用は、報告が少なくなっている。

データをさらに有用なものにするために

研究者らによれば、「薬物同義語のもつれ」はデータベースを阻害するという。FAERSには多くの薬物が、そのブランド名や一般名のもとで入力されており、それは同じ有効成分に言及した何百という名前が存在する可能性を意味している。薬剤名を使う代わりに、研究者らはデータベースを化学構造により編成した―それは薬剤の治療的効果を理解するための手がかりになる―そして重複した項目を修正した。

データベースのレポートのほぼ半分だけが医療従事者により作成されたものであるという研究結果が示された。弁護士によるレポートは、データベースの約3パーセントを占め、ニュース報道に関係するバイアスとのより高い関連を示した。副作用の報告は、特定の薬品に関するニュースや発表により影響され、他の類似作用薬も同様の発表により影響されることが多かった。

たとえば、関節炎治療薬であるセレコキシブ(COX-2阻害薬)に関連する脳卒中や心臓発作の報告は、他のCOX-2阻害剤ロフェコキシブ(Vioxx)が調査中で、最終的に市場から回収された時点で急増した。しかしながらこれらのセレコキシブの副作用レポートは、後に有意でないバックグラウンドレベルまで低下した。逆に、活性のある化学成分の解析のために薬品を利用しなければ、抗うつ剤SSRIの使用に関連する性的副作用のような既知の関連性すら有意とはならないようであった。

Shoichet博士は、薬物の副作用の予測や新薬デザインの初期段階での副作用の予防、さらには標的外効果を活用して新しい疾患を対象に薬を別途使用するために化学的知見やコンピューターを用いた方法を活用することに長年関心を持っている。同博士にとって、FAERSデータベースは有害事象の理解を向上し、他の疾患の治療に使用できる可能性をはっきりさせる標的外の相互作用を発見するためのデータを見つけ出す最適な場所のように見えた。「しかしながら、私たちは、FAERS には化学物質の情報がほとんどないことに驚きました。データベース内の多くのブランド名を化学構造として扱うことができるわかりやすい活性成分に編成するのは非常に困難でした」とShoichet博士は述べた。

Shoichet博士は、彼が研究で用いた方法が大量のデータベースをより有用なものにできることを望んでいる。「薬剤が重要な副作用につながるシグナルを確認するためFAERSを解析する研究者らは交絡因子を実際に知っておくことが必要であり、われわれはそれを行う一つの方法を提示しました」。

「人々に多剤処方し、そのままにしておくことはできない」―Marilyn Stebbins薬学博士

FAERSは潜在的な薬の副作用を特定するために非常に貴重であると証明されるかもしれないが、そのデータベースを用いて薬品の相互作用による副作用を特定することは困難である。人口高齢化に伴い、2つ以上の慢性疾患に対する多剤処方を受ける人が多くなっており、薬剤相互作用を特定することは、ますます重要である。加えて、同じ薬を処方どおりに服用してもすべての患者が同様の反応をするわけではなく、そのため個々人の反応を予測することは困難なままである。

Stebbins博士によれば、重要なことは薬物使用の状況を各々の患者でモニターすることです。多くの場合、薬の有害事象はノンアドヒアランスとも言われるが、処方された薬剤を決められたとおりに服薬しないことに起因する。患者は説明を誤解したり、金銭的に余裕がないと考え、調剤してもらうのを怠る可能性がある。同博士は、UCSFで新たな退院患者を対象に、彼らの薬物治療に対する関心事に応じ、追跡するプロジェクトに取り組んでいる。「薬物治療、特に鎮痛剤や糖尿病の薬の処方時のミスコミュニケーションで、副作用のトラブルに合う患者さんが多いようです」。

慢性疾患に罹患している外来患者に対し、薬剤使用の管理を手助けするという地域薬剤師のより大きな役割を彼女は考察する。「人々に多剤処方をして、そのままにすることはできません」。彼女は続けた。「もし患者さんたちを引き込んで、彼らの薬物治療を今よりも定期的に評価すれば、私たちはきっと多くの薬物有害反応、相互作用、救急救命室受診、入院、すべてを防ぐことができ、そして患者さんの生活の質を向上させることができるでしょう」。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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