マントル細胞リンパ腫に対する細胞毒性のない一次治療

MDアンダーソン OncoLog 2017年4月号(Volume 62 / Issue 4)

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マントル細胞リンパ腫に対する細胞毒性のない一次治療

分子標的治療薬 と免疫療法薬を用いた一次治療により、マントル細胞リンパ腫で高い奏効率

マントル細胞リンパ腫(MCL)は平均的な地域のがん専門医が出会うことは滅多にないまれな疾患であり、他のB細胞リンパ腫と切り離して研究されることはほとんどない。特に、新たにMCLだと診断された患者に対する治療法の研究が不十分であるため、多くの患者が一次治療薬に抵抗性を示すようになるか、あるいはその細胞毒性に耐えられなくなる。しかしながら、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、MCLの一次治療薬として、細胞毒性のない分子標的治療薬と免疫療法薬の組み合わせの評価が現在臨床試験で実施されている。

3次医療センターとしてMDアンダーソンでは、米国内の他の病院より多くのMCL患者を受け入れており、研究者らはこれを良い機会であると捉えた。「必要最低限のMCL患者を集めることができたことから、純粋にMCLだけを対象とした臨床試験を計画することができたのです。そのため、今ではこの疾患に精通した病院であると見なされているのです」と、MDアンダーソンのB細胞リンパ腫ムーンショット計画の共同リーダーであり、リンパ腫および骨髄腫部門教授であるMichael Wang医師は述べた。

ほとんどのMCLの試験では病気が再発した患者への新規介入が試されているが、MDアンダーソンが実施中の2つの試験では治療歴のない患者に焦点を置いている。「MCLでは、最初の治療が最も重要なのです」と、Wang氏は述べた。「一次治療がうまくいけば、ほぼ全てのMCL細胞を取り除くことができるのです。MCL細胞が耐性を獲得するチャンスはなくなり、寛解が長く続くことができるのです」。

標準一次治療

MCLの標準一次治療は、シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシンおよびデキサメタゾンの分割投与などによる高用量化学療法レジメン(hyper-CVAD療法)のみ、あるいはこれに幹細胞移植を組み合わせたものになる。最初の段階でこのような集中的治療を行うことが、低い再発率および数年にもおよぶ全生存期間に繋がる。

しかしながら、この集中的レジメンは多くの患者、特に高齢の患者には毒性が強すぎる可能性がある。そのため、高齢のMCL患者に対する標準一次治療は、ベンダムスチン+リツキシマブが用いられる。この組み合わせは集中的治療よりも毒性は少ないが、奏効率は低く、集中的レジメンの時ほど寛解は持続しない。

集中的治療に対して多くの場合寛容な若年の患者であっても、細胞毒性のある治療によって急性あるいは長期の副作用が現れる。「標準の集中的治療を10人の患者に行うと、そのうち1人を毒性のために失ってしまうのです。これは受け入れられない」と、Wang医師は述べた。

そしてまた、MCL患者の寛解は必ずしも持続するとはかぎらない。その理由のひとつとして、標準一次治療として静注された細胞毒性のある薬剤では、骨髄やリンパ組織にある多くのMCL細胞を排除しきれていないことが挙げられる。

イブルチニブ+リツキシマブ

生き残ったMCL細胞はcompartmental shift(遊離)と呼ばれる現象によって排除される可能性がある。この現象では、薬剤によって骨髄やリンパ節などの体の他の部分から末梢血へのがん細胞の一時的な移動が誘導される。一旦末梢血内に入るとがん細胞は静脈内の抗がん剤により攻撃されやすくなる。

イブルチニブは、ブルトン型チロシンキナーゼを標的としてB細胞受容体シグナル伝達経路を阻害する経口薬であり、MCLにおいてcompartmental shift(遊離)を誘導することがわかっている。Wang医師らは、再発あるいは難治性のMCL患者において、B細胞表面にあるCD20に結合し細胞を破壊する静注薬リツキシマブをイブルチニブと組み合わせて用いることで、両薬の活性が向上することを示した。これらの発見を基に、Wang医師らのグループは、新たにMCLと診断された患者に対してこの薬剤の組み合わせが有効であるだろうとの仮説を立てた。この分子標的治療薬 と免疫療法薬の組み合わせは、MCLに対する標準治療レジメンの、より毒性の低い代替法ともなる。

若年患者を対象とした試験

細胞毒性のある薬剤を用いた治療が少ないサイクルで済むようにできる一次治療としてのイブルチニブ+リツキシマブの可能性を探るために、Wang医師らは65才以下の新規MCL患者の単一施設第2相臨床試験(No. 2014-0559)への登録を現在行なっている。これまでに治療を行なった患者の多くが進行した状態であったが、全員がパフォーマンスステータス(一般状態)が良好で、臓器機能は正常であった。

患者の治療は2段階で実施される。第1段階は、化学療法を用いずに、経口薬イブルチニブと静注薬リツキシマブによる治療を実施する期間である。その後、リツキシマブ+hyper-CVADによる地固め化学療法を、リツキシマブとメソトレキサートとシタラビンを順に入れ替えながら行う。イブルチニブとリツキシマブによる治療は反応に応じ2〜12サイクル実施し、地固め化学療法は、化学療法を用いない段階が終わった時点で完全寛解であったかどうかに応じて4〜8サイクル実施する。

「細胞毒性のある化学療法を開始する前の時間を利用して、分子標的および生物学的療法を実施すれば、化学療法の必要性は低くなるでしょう。その結果、治療による毒性は減少し、生存期間が長くなる可能性があります」と、この試験の臨床試験責任医師であるWang医師は述べた。

この予想は、予備的な結果で確認されている。これまでにイブルチニブとリツキシマブによる治療を受けた患者における全奏効率(完全奏効+部分奏効)は100%で、さらに完全奏効率は73%におよび今なお上昇しており、多くの患者が4サイクルだけの地固め化学療法を受けるだけで済んでいる。分子標的療法により最も多く認められた有害事象は、疲労、筋肉痛、下痢および口腔粘膜炎であり、いずれも軽度であった。化学療法による主な有害事象は貧血、リンパ球減少症、血小板現象症および白血球減少であった。生存転帰を判断するにはさらなる追跡が必要であるが、追跡調査期間中央値9カ月において、死亡、疾患の進行または再発は認められなかった。

「MCLの若年患者で全奏効率が100%になったのは、化学療法を用いない一次治療レジメンではこれが初めてです」とWang医師は述べた。試験が早期に成功したことから、計画されていたよりも50人多くの患者が追加登録されることになった。

高齢患者を対象とした試験

一般的に高齢のMCL患者が受ける治療は、若年患者ほど集中的ではないため、効果は低い。結果として、高齢患者の生存期間は通常わずか3〜5年と短い。この高齢患者において、安全性を損なうことなく生存期間を伸ばすために、Wang医師らは65才以上の新規MCL患者550人を対象とした国際共同ランダム化第3相対照試験(No. 2013-0056)を計画した。リンパ腫および骨髄腫部門の教授であるJorge Romaguera医師は次のように述べた。「その低い毒性と高い有効性という特徴から、新たにMCLと診断された高齢患者に対する確立された一次治療に加えるのにイブルチニブは最適の薬剤なのです」。

二重盲検試験に参加した患者に対し、ベンダムスチンとリツキシマブによる標準レジメン+イブルチニブあるいはプラセボのいずれかを6サイクル実施した。この試験の目的は、無増悪生存期間の延長で、さらに潜在的には全生存期間の延長であった。

登録が完了したこの試験の結果によっては、イブルチニブがMCLの一次治療として承認される可能性がある。Wang医師は次のように述べた。「最初の目的が達成されたならば、この治療が世界中の高齢MCL患者に対する新しい標準となるだろう」。

次のステップ

若年患者を対象としたイブルチニブとリツキシマブの試験では優れた奏効が認められたが、4サイクルだけの地固め化学療法を受けた一部の患者では重篤な有害事象が認められた。この残された毒性を軽減することを目指した別の試験が計画されている。また、若年患者を対象としたイブルチニブ+リツキシマブの試験の結果と関連している分子を特定するため、実験室での研究も計画されており、患者の奏効が持続することを確かめるためには長期間にわたる追跡調査が必要となる。

イブルチニブ+リツキシマブの利用によって、MCL治療のやり方が変わるだろうとWang医師は予想している。「有効性を向上させ、さらに毒性も著しく軽減しながら、一次治療における細胞毒性のある化学療法薬の使用を減らすのが、この試みなのです」と彼は述べた。治癒率および生存転帰におけるこれらMCL試験の効果が、B細胞リンパ腫の治癒率を劇的に上げるというMDアンダーソンの目標に寄与するだろうと彼は期待している。

【画像キャプション訳】

イブルチニブとリツキシマブによる治療を6サイクル受ける前(左)と後(右)に撮った陽電子放射断層撮影の画像から、全身のマントル細胞リンパ腫が劇的に減少したのが確認できる。画像はMichael Wang医師の厚意による。

For more information, contact Dr. Jorge Romaguera at 713-745-4247 or Dr. Michael Wang at 713-792-2860. For more information about clinical trials for patients with lymphoma, visit www.clinicaltrials.org.

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翻訳担当者 田村克代

監修 北尾 章人(血液・腫瘍内科/神戸大学大学院医学研究科)

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