家族のがん既往歴を収集して主治医と共有する必要性

2016年2月 Cancer.Net編集委員会承認

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家族の既往歴を主治医と共有することは大切です。これは、がんと診断された場合に特に当てはまります。この記事では、がん家系の可能性を調べることがなぜ有用か、そして、どのように調べるのかを説明します。

【遺伝性腫瘍とは何でしょうか】
遺伝性腫瘍とは、変異(あるいは変化)のある遺伝子を持って生まれたことでがんに罹患する可能性が通常より高くなることを意味します。この遺伝子変異は、母親、父親、またはその両方から受け継いだ可能性があります。遺伝性腫瘍は家族性腫瘍とも呼ばれます。

すべてのがんの約5%〜10%が遺伝性です。これはがんのごく一部であるが、それではがんになりやすい家系であるかどうか判断するにはどうしたらいいか。その手がかりには以下のようなものがあります。

•父方または母方の家系に、がんに罹患した近親者が複数いる、特に、その近親者が若年時にがんと診断された場合。
•家族の1人に複数の腫瘍ができた、特に同じ臓器に複数できた場合。

【遺伝性腫瘍のための遺伝子検査】
遺伝性腫瘍は、遺伝子検査によって発見されます。遺伝子検査では遺伝子、染色体、またはタンパク質の分析を行います。検査により、以下のことが可能です。

•病気になるリスクを予測するのに役立つ。
•病気の「保因者」を特定する。「保因者」とは、病気を発症していないが、疾病遺伝子のコピーを持っている人を意味する。
•病気を診断する。
•病気の経過を予測する。

遺伝子検査は、遺伝物質を含む血液または組織、例えば頬の内側の細胞のサンプルを採取することによって行われます。900を超える遺伝子検査があり、乳がん、卵巣がん、結腸がん、甲状腺がん、その他のがんなど、さまざまな疾患が対象になっています。遺伝子検査について詳しくはこちらへ。

【がん家族歴からわかること】
がん家族歴の情報は、医師が次のことを判断するのに役立ちます。

•あなた、またはあなたの家族にとって遺伝カウンセリングは有益であるかどうか。遺伝カウンセリングとは、遺伝性腫瘍のリスクと、遺伝子検査の利点、リスクと限界を説明する専門的なカウンセリングである。
•あなた、またはあなたの家族にとって遺伝子検査は有益であるかどうか。
•遺伝子検査を必要としない場合でも、遺伝性腫瘍のない患者よりも集中的な追加治療が必要か否か。

【収集するべき情報】
主治医は、第1度近親者(両親、子供、同父母兄弟・姉妹)と第2度近親者(祖父母、叔母・伯母・叔父・伯父、甥・姪、孫、異母・異父の兄弟・姉妹)に関するがん既往歴の情報を求めるでしょう。がんに罹患した近親者ごとに、以下に関する情報を可能な限り多く収集しておくこと。

•がんの種類
•診断時の年齢
•系統。つまり、母方(母系)か父方(父系)か
•民族(アシュケナージ系ユダヤ人のように、特定のがんのリスクが高い民族がいる)
•以前受けたがん関連遺伝子検査の結果

家族の中には、あなたに自分の健康の話をすることに抵抗を感じる人がいるかもしれないことに留意してください。事前に質問事項を伝え、少しの情報でも役立つと強調しておいてもいいかもしれません。気が散らずに話せる時間を見つけてみてください。

【あなたのがん家族歴を医師と共有するタイミング】
可能であれば、診断後すぐ、治療を開始する前に、がん家族歴を主治医に提供してください。新たに収集した情報や家族歴の変更について主治医に知らせることも大切です。医学の進歩によって、主治医によるあなたのがん家族歴の評価の仕方が変わることもあります。がん家族歴は、治療の最初の段階の後、治療後の治療内容説明の際、および治療後の経過観察のための診察のときに見直すとよいでしょう。

【がん家族歴を収集、共有する方法】
情報を収集する1つの方法は、ASCOのCancer Family History質問票を利用することです。自分のわかる範囲で書式を記入したら、それを主治医との次回診察時に持参し、相談してください。また、近親者にも書式を送り、近親者が自分の主治医と情報共有できるようにするべきです。ただし、近親者の中には、あなたと同じように情報を欲したり、重要視したりしない人がいるかもしれないことに留意してください。

【主治医に尋ねること】
がん家族歴を確認した後、主治医が遺伝性腫瘍を疑った場合、その意味と、その後どのような対応ができるかを理解する必要があります。医療従事者に次の質問を尋ねることを検討してください。

•がん家族歴により、他のがんに罹患するリスクがあるか。
•遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けることを勧めるか。
•遺伝カウンセラーを紹介してもらえるか。もしくは、遺伝カウンセラーの見つけかたを勧めてもらえるか。
•遺伝子検査の目的は何か
•遺伝子検査から得られる情報により、今後の治療計画が変更されるか。
•遺伝カウンセリングと遺伝子検査は保険が適用されるか。
•自分の遺伝情報は保護されるか。
•どの家族にリスクがあるか。
•遺伝子変異を受け継ぐ人は必ずがんに罹患するか。
•家族とどのような情報を共有する必要があるか。
•この情報を伝達するに際して役立つ提案はあるか。

追加情報
遺伝カウンセラーとの面談での心得
家族と遺伝子検査の結果を共有する
遺伝性がん関連症候群の一覧

追加情報源
National Cancer Institute (NCI): 遺伝性腫瘍疾患のための遺伝子検査
Centers for Disease Control and Prevention: 家族既往歴
Genetic Alliance: 家族既往歴
U.S. Department of Health and Human Services: 公衆衛生局長官の家族既往歴に関する取り組み

がん遺伝学専門家を探す
National Society of Genetic Counselors: 遺伝子カウンセラーを見つける
NCI: がん遺伝学サービス・ディレクトリ
American College of Medical Genetics: 臨床サービス 検索エンジン
American Board of Medical Genetics: 認定遺伝学者を探す
American Board of Genetic Counseling: カウンセラーを見つける

=====
Cancer.NET 遺伝性がん日本語訳シリーズ:
がんと遺伝子
遺伝子検査でがんリスクを調べる
家族のがん既往歴を収集して主治医と共有する必要性
遺伝カウンセラーとの面談での心得
遺伝性がん関連症候群の一覧

翻訳担当者 関口百合

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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