乳房温存術後の短期放射線療法はケアの質・価値を高める

緊急リリース

ASCOの見解

ASCO乳がんエキスパート Don S. Dizon医師

「患者にとって質および価値の高い治療を決定するには、臨床的メリットや費用など数多くの要因があります。本研究は、臨床的エビデンスに基づいて各患者に合わせた放射線療法を行うこと(行わない場合も含めて)が、特に乳房温存術を受けた50歳以上の女性にとって質の高いがん治療につながることを示唆しています。同時に、エビデンスに基づく治療によって関連費用も削減できることを示しています。本研究は、医師と患者の共通の意思決定プロセスが重要であることをさらに重視しています」。

新たな研究で、乳房温存術を受けた乳がん患者が照射回数のより少ない放射線療法を受けても、転帰に悪影響はなく、医療費を大幅に削減できる可能性があることが示された。エビデンスに基づく放射線療法か、それとも放射線療法なしか、その適格性を米国国立がんデータベース(NCDB)で調査した結果が本日、Journal of Oncology Practiceの電子版で掲載された。乳がん患者は、乳房全摘出術に代わって乳房温存術+放射線治療を受けることが多い。それは、疾患特異的生存率や全生存率に差がないことが調査で示されているためである。

「この研究は、医療費を削減しながらも質の高いがん治療を維持できる治療戦略があることを示す重要なものです」と、研究の著者でデューク大学医学部外科助教であり、乳房フェローシップ・ディレクターで公衆衛生学修士のRachel Greenup医師は語る。「がん治療には、価値の高い治療、患者の意向、医療費削減による社会的利益を同等に実現できる可能性があります」。

研究について

米国で新たに診断されたがん全体の約70%を占める腫瘍登録の臨床および人口統計データのデータベースであるNCDBにアクセスし、2011年に乳房温存術を受けた43,000人超の浸潤性乳がん患者を同定した。解析によりこれらの患者を2種類の放射線治療グループ、または放射線治療なしグループに登録する候補者を決定した。

  1. 通常分割の全乳房照射(全5~6週間の治療期間のうち、最初の4~5週間は全乳房に対して放射線治療を適用し、次いで腫瘍を集中的に治療)
  2. 短期間の全乳房照射(加速分割照射法または小分割照射法で、乳房に照射する1日あたりの線量が高めの3〜4週間の治療法)
  3. 放射線治療なし

その後、研究著者らは全国的な放射線治療パターンを決定し、Medicare Physician Fee Scheduleを使用して放射線治療費を算定した。

主な知見

2002年以降、慎重に選択された患者においては、治療回数が少なく線量が高い小分割照射法を用いた放射線治療レジメンが安全な選択肢であることを示唆する数多くの研究が発表されている。 2013年には、米国放射線腫瘍学会(The American Society of Radiation Oncology)がChoosing Wisely(賢明な選択)キャンペーンにおいて、50歳以上の乳がん女性の放射線治療レジメンを短くする検討を推奨した。 このエビデンスベースに基づき、研究著者らは次のことを見出した。

●43,247人の患者コホートのうち、64%が従来の放射線治療を受け、14.4%が加速分割照射法または小分割照射法の放射線治療を受け、21.6%が放射線治療を受けなかった。

●2011年の全患者43,247人の全放射線治療の推定治療費は、約4億2,020万ドルであった。

●より短期間の放射線治療または放射線治療なしの適格性があった患者のうち、57%がより長期で高価なレジメンの治療を受けた。

●これらの患者が、安全で適格性があるとされたほかの放射線治療を受けていた場合、2011年の推定治療費の総額は2億5,620万ドルであった。

●これは、1億6,400万ドルの潜在的節約、すなわち患者の治療費が39%削減できた可能性を示している。

この分析は、戦略的な放射線治療アプローチおよび費用削減の潜在的な可能性について考察した、これまでで最大規模の研究である。

次のステップ

乳房温存術を受けた医療施設とは別の施設で放射線治療を受けることを選択する患者については、NCDBは十分に網羅していない可能性があり、この事実によって研究に制限が生じていると著者らは報告している。さらに、患者および医師の臨床的決断は、しばしば大規模データベースでは十分に網羅されていない要因に基づいていることがある。

さらにGreenup医師は、この発見は、がん治療には両者にとって有利なシナリオがあることを強調していると語る。

「がん治療では、質の高い治療が最優先事項ですが、エビデンスに基づく放射線治療を利用すれば、質を犠牲にすることなく医療費を削減できることをわれわれの研究は示唆しています。治療の負担が軽減し、医療費が削減する優れたがん治療を受けることができれば、それは質・価値が高い治療と言えます」とGreenup医師は述べた。

患者の意向は、すべての治療選択肢が議論されるときに最もよく反映されると研究者らは述べる。Greenup医師は、現在、女性が乳がんの治療法を選択する際、患者と医師の共通の意思決定プロセスに治療費がどのように組み込まれるかについて、評価している。

この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)のBuilding Interdisciplinary Research女性の健康(Women’s Health)アワードより資金援助を受けた。

翻訳担当者 白石 里香

監修 中村 光宏(医学放射線/京都大学大学院医学研究科)

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...