卵巣がん治療薬が神経膠腫に有効な可能性

ある種の脳腫瘍でしばしば見られる遺伝的欠陥は、細胞がDNA損傷を修復するのを抑制する可能性があることが、米国の新たな研究で示唆されている。

エール大学の研究者らは、この欠陥により、実験室において脳腫瘍細胞が、一部の卵巣がん患者の治療に使用される薬剤に対して高感受性になることを見出した。

総括著者であるRanjit Bindra博士によると、臨床試験で確認されれば、「診療を変える可能性」があるという。特定の脳腫瘍に対する新規の治療法の可能性を示唆しているからだ。

Science Translational Medicine誌に掲載された今回の研究では、IDH1およびIDH2と呼ばれる2つの遺伝子の欠陥を調べた。これらは、神経膠腫と呼ばれる脳腫瘍や、メラノーマなど数種類のがんでみつかっている。

研究チームは培養皿の細胞を調べ、これらの遺伝子の欠陥は、細胞がDNA損傷を修復する機能を阻害することを発見した。

そこで研究者らは、こうした細胞に対して多くの異なる薬剤を試験し、PARP阻害剤に属する薬剤により細胞が死滅することを見出した。これらの薬剤は、細胞のDNA修復機構の弱点を利用するもので、すでに一部の卵巣がん症例の治療に用いられている。

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チームは、遺伝的欠陥を有する患者およびマウスの神経膠腫細胞を調べることにより、これらの知見を裏付けた。神経膠腫が、オラパリブ[olaparib](Lynparza)と呼ばれるPARP阻害剤の一種に対して、特に感受性を示すことを見出した。

キャンサーリサーチUKの脳腫瘍専門医Anthony Chalmers教授は、今回の結果を「非常に重要」であり、「神経膠腫の治療に大変革をもたらす」可能性があると述べた。

さらに、「PARP阻害剤は副作用がほとんどなく、脳腫瘍治療への展望に期待しています」と述べた。

「本研究で調べた遺伝的欠陥は、緩徐に増殖する神経膠腫では非常に一般的ですが、急速に増殖する膠芽腫でも最高で10%にみられるため、これらの薬剤が有効な可能性のある患者数はかなり多くなります」。

「現在、実施可能な治療は、必ずしもこれらの脳腫瘍に有効とは限らないので、複数の有望な選択肢をもつのはすばらしいことです」。

現在、チームでは、オラパリブのような薬剤が、IDH遺伝子の欠陥を有する腫瘍患者の治療に使用可能であるか否かを検討する臨床試験を計画している。

参考文献:

Sulkowski, P. L. et al. (2017). 2-Hydroxyglutarate produced by neomorphic IDH mutations suppresses homologous recombination and induces PARP inhibitor sensitivity. Science Translational Medicine.

翻訳担当者 木下秀文

監修 北丸綾子(分子生物学)

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