待機療法アプローチが直腸がん治療に有効な可能性

専門家の見解

「直腸がんの手術は非常に有効ですが、リスク、回復期間、機能への長期的影響は患者の生活の質(QOL)に重大な影響を及ぼします。どのような直腸がん患者であれば待機療法アプローチ(watch-and-wait approach)で安全に治療できるかをよりよく理解するために、この分野でさらに研究を進めることが不可欠です」と、今日のプレスキャストの司会者、ASCO専門委員Nancy Baxter医師(MD,FRCSC,FACS,PhD)は語った。

ある大規模な観察研究から得た実在データから、厳密に選択された臨床的完全奏効例においては、手術を実施しないことで転帰不良とはならないことが示唆された。 最初のがん治療後に待機療法を受けた患者の3年生存率は91%であり、手術を受けた患者の生存率と同様であった。 これは喜ばしいニュースである。というのも、直腸手術は、人工肛門造設や排尿・性機能障害など衰弱性合併症のリスクを伴うためである。 この研究は、サンフランシスコで開催される2017年消化管がんシンポジウムで発表される予定である。

直腸がん治療戦略は、国によって、また国内でも多種多様であるが、外科手術は標準治療の一部である。 ほとんどの国で、ステージII-IV直腸がん患者は手術前に化学療法や放射線療法を受ける。 術前治療後に約20%の患者で腫瘍は完全に消失するが、手術がまだ必要かどうかを判断するために腫瘍を再評価するか「ステージ再評価」をすることは標準的ではない。

International Watch and Wait Database Consortium、ライデン大学医療センター(オランダ、ライデン)の研究コーディネーターの一人であるMaxime van der Valk医師は、「直腸がん患者の中には、不要であるかもしれないのに、化学放射線療法後に手術を受ける人がいます。今回、われわれが得たデータからは、特定の直腸がん患者では待機療法アプローチが安全と言えるようです。しかし、このアプローチを日常的に提供すべきとするには時期尚早といえます」と、述べた。

試験

試験データは、11カ国の35の機関を含むInternational Watch and Wait Database Consortium(IWWDコンソーシアム)を通じて収集した。 著者らによると、このデータは、化学療法と放射線療法後に手術をしなかった直腸がん患者を集めた最大規模のものである。

この解析には、化学療法および放射線療法後の診察、内視鏡検査、またはスキャン(MRIまたはCT)に基づいて、導入療法後に残存がんの徴候がなかった802人の患者が含まれていた。 患者は全員、がん再発がないか調べる集中モニタリングを含む、待機療法を受けた。 最初の2年間、患者は3カ月毎に来院し、内視鏡検査、MRIスキャン、および、診察を受けた。

主要な知見

待機療法は、いずれの国でも直腸がん患者標準ケアではない(実施されているのは全患者の5%にも満たないと推定される)。 まだ、直腸がん患者全員に適用できる待機療法の方策がない。 世界全体では、術前治療や,化学放射線療法後に腫瘍が退縮あるいは消失したかを決定する方法,さらにがん再発のモニタリング方法にはかなりの差異がある。

追跡期間中央値2.6年後に、25%の患者はがんが再発したと診断されたために遅れて手術を受け、7%の患者に遠隔転移がみとめられた。3年生存率は、全患者では91%であり、局所がん再発を経験した患者では87%であった。 これは、手術を受けた患者のこれまでのデータと変わりがない

「われわれの研究は優れた成果を得ていますが、手術を受けるという決定はすべての患者個人がするものです。一生涯、人工肛門を持つリスクに直面すると、手術を回避する方を選択する患者がいる一方、再発する可能性があるがんの不確実性に向き合いたくない患者もいるでしょう」と、van der Valk博士は述べた。

次の段階

IWWDコンソーシアムは、直腸がんにおける待機療法に関する利用可能なすべての前向き、および、後ろ向きデータを収集することを目指している。 今後のデータ収集および解析により、直腸がん患者に対する治療と監視に関して国際ガイドラインに情報が提供されるかもしれない。

この研究は、欧州腫瘍外科学会(ESSO)EURECCA(European Registration of Cancer Care:ESSOイニシアチブの一つ)、およびChampalimaud財団(在リスボン)の助成金を受けた。

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翻訳担当者 有田香名美

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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