PIK3CA遺伝子変異乳がんへの新療法、前臨床で効果確認

がん細胞の2つの重要な生存戦略を遮断する薬剤効果を示す前臨床試験

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『二重の攻撃で、特定の乳がん細胞を殺傷する効果』

 
これまで標的阻害薬は、乳がんの35%を占める遺伝子変異によってコードされるタンパク質を阻害してきた。 しかし、それだけではがん細胞死を引き起こすには不十分であった。
新しいアプローチは併用分子標的療法によるものである。 BCL-XLと呼ばれるタンパク質を阻害する薬剤と、細胞経路mTORを標的とする薬剤の併用は、遺伝子変異を有するがん細胞に致命的であることが判明した。
PI3Kは、mTORと呼ばれる細胞経路に沿って情報伝達するタンパク質であり、ほかの細胞内タンパク質および細胞内事象とともに、がん細胞の生存の鍵を握る。

デュークがん研究所の研究者が試験している治験分子標的薬と、既存の分子標的治療薬とを併用することで、特定の遺伝子変異を有する乳がん細胞の死を誘導することができる。

前臨床実験で併用したところ、これらのタイプのがん細胞が治療を回避するために用いる主要な生存戦略のうちの2つが遮断された。

計画された臨床試験で、このアプローチが成功であることが証明されるならば、マウスモデルおよびヒト腫瘍細胞における知見は、治療を進める上で広範囲にわたる影響を与える。 乳がんが見つかったとき、その約35%に遺伝子変異が発見され、標準治療後に遺伝子変異がさらに発生したとき、この併用アプローチの影響を受けやすい可能性がある。

「この研究は、併用治療の作用機序を明らかにするだけでなく、細胞および動物モデルにおける治療の作用を調査するために実施された、いくつかの慎重な研究を反映しています」と、デューク大学医療センターPharmacology&Cancer Biology部門の助教であり、12月14日にScience Translational Medicine誌に発表された本研究の上級著者であるKris C. Wood医学博士は語った。

「われわれの予備的知見は、この治療法が、この突然変異を有する乳がん患者に安全かつ有効なアプローチである可能性があることを示唆しています」とWood氏は語った。

筆頭著者のGrace R. Anderson氏、Wood氏をはじめとする研究者らは、ある医学的矛盾から試験を開始した。乳がんが増殖する理由の一つとして、細胞増殖と細胞死を制御する調節プロセスの不調がある。いくつかの薬剤はこれらの調節経路を阻害するが、乳がんを含む固形腫瘍はあまり阻害できない結果がこれまでに示されている。

デュークがん研究所の研究者らは、研究において、ある試験薬剤をより効果的に作用させる方法を模索することから始めた。 この薬剤は、ABT-737と呼ばれ、プログラム細胞死に関与する細胞経路を阻害する。 ほかの研究と一致して、この薬剤は、研究者が試験したさまざまな固形腫瘍細胞にはほとんど影響を与えなかった。

しかし、研究者が第2の薬剤(今回は哺乳類ラパマイシン標的タンパク質、またはmTOR経路と呼ばれる別の細胞生存経路を阻害する薬剤)を追加すると、乳がん細胞の一部がかなりの割合で死滅した。

この一部の乳がん細胞はすべてPIK3CA遺伝子変異を有し、新たに診断された乳がん腫瘍の約35%に見出される。 PIK3CA遺伝子は、mTOR経路を直接活性化するタンパク質PI3Kをコードする。 これまでの研究では、PIK3CA遺伝子変異を有する乳がんは、PI3KまたはmTORを標的とする薬剤にはうまく奏効しないことが示されており、その理由はほとんどわかっていない。

さらに研究を進めた結果、研究者らはこの難問を解決したようである。 ABT-737またはmTOR阻害剤のいずれかの試験療法が単独で行われ、薬剤によって標的にされていない細胞生存経路に依存しているときにだけ、PIK3CA遺伝子変異腫瘍は死滅を免れることができることを発見した。 しかし、2つの薬剤を併用すると、薬剤効果は致死的となり、細胞生存経路の両方を遮断し、腫瘍細胞を死滅させることができる。

「この研究の説得力のある結果の1つは、両方の治療法を非常に低用量で実施しながら強力な結果を達成できることです。そのような低用量ならば副作用を最小限に抑えることができるでしょう」と、筆頭著者であるAnderson氏は述べた。

研究者らによれば、現在承認されている治療法や、ABT-737の臨床上の類似物質Navitoclaxなどの試験薬を用いて、臨床試験での知見を進展させる計画が進められている。

Wood氏、Anderson氏以外の研究著者:Suzanne E. Wardell, Merve Cakir, Lorin Crawford, Jim C. Leeds, Daniel P. Nussbaum, Pallavi S. Shankar, Ryan S. Soderquist, Elizabeth M. Stein, Jennifer P. Tingley, Peter S. Winter, Elizabeth K. Zieser-Misenheimer, Holly M. Alley, Alexander Yllanes, Victoria Haney, Kimberly L. Blackwell, Shannon J. McCall, and Donald P. McDonnell

この研究は、米国国立衛生研究所(K12HD043446、DK48807)、米国国防総省(BC151664)、および、米国国立科学財団(DGE-1106401、DGF-1106401)から連邦政府補助金を受けた。 出版物には完全な資金援助の情報が記載されている。

翻訳担当者 有田香名美

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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