年齢で甲状腺がんの病期を決定すべきでない

デューク大学医療センター

患者さんの予後を決定するために使われる指針の変更の必要性を示唆する新しいデータ

甲状腺がんの患者を45歳未満と45歳以上に分けて別個に治療を考慮するという現行の治療指針を支持する統計学的な裏付けが無いことが、デュークがん研究所の研究で明らかとなった。

本研究は、2016年10月31日付のJournal of Clinical Oncology誌に掲載された32,000人にも及ぶ甲状腺乳頭がん患者を解析したが、予後が明らかに違ってくるために区切りとしなければならないような特定の年齢は見いだせなかった。

本データによると、医師が甲状腺がんの病期や予後を判定する際には、患者さんの年齢にかかわらず、腫瘍の大きさやリンパ節転移など同じ基準を用いるべきである、とデューク大学内分泌外科医および腫瘍外科医であり本研究統括著者のJulie Ann Sosa医師は述べている。

今回の研究結果は、米国がん合同委員会(AJCC)による現行の甲状腺がん病期分類のガイドラインや、今月に発表され2017年1月に施行されるAJCCガイドライン改訂版にも異議を唱えるものである。

「つまり、年齢に基づく病期分類は、患者さんの予後を評価し治療法を決める際の最適な方法ではないだろうと いうことです」とSosa医師は述べた。彼女自身も新ガイドラインを作成するAJCC委員会のメンバーであるが、この委員会は今回の新しいデータがでる前に開催された。

さらにSosa医師は「また、予後を明らかに左右する区切りとなる特定の年齢は無いことが、我々の予備データで示されています」「患者さんが若くても高齢であっても、生存に影響を及ぼす要因は同じなのです。ここで暗示しているのは単純なことで、我々は現行の病期分類システムを再考する必要があり、また改訂もあり得るということです」と述べた。

「患者さんが若くても高齢であっても、生存に影響を及ぼす要因は同じなのです。」
Julie Ann Sosa医師、デューク大学内分泌外科医および腫瘍外科医

現行のAJCCガイドラインでは、患者を45歳未満と45歳以上の2グループに分けている。45歳以上の患者は進行度が4段階で評価され、1期は最も早期のがん、そして4期はリンパ節や遠く離れた身体の部位にまで転移したしがん意味する。

しかし45歳未満の患者の場合、AJCC分類では、小さく局所にとどまるものから頸部を越えて広く転移したものまでを、たった2段階に分類する。この基準に基づくと、頸部のリンパ節の至る ところに転移していても、44歳の患者さんでは1期に分類される。一方で、同じがんの広がりであっても、たった一歳年上の患者さんでは4期に分類されてしまい、予後がより悪くより強力な治療が行われる可能性がある、とSosa医師は述べている。

「実際、現行のガイドランでは、同じがんの状態であっても、単に年齢の違いから、45歳未満の甲状腺がん患者の予後は45歳以上の患者に比べて明るい、と判定されてしまいます」とSosa医師は述べた。医師はデュークがん研究所およびデューク臨床研究所Endocrine Neoplasia Diseases Group主任でもある。「しかし我々が全国レベルで調査したデータからはそのような結果は得られませんでした」。

むしろ、患者さんのすべての身体情報や受けた治療を含めた統計解析では、患者が年をとるにつれて生存率は徐々に低下することが示された。

本研究では60歳未満の甲状腺乳頭がん患者のうち、98%以上は診断後10年以上経過しても生存ていることも示された。研究者たちは米国国立がん研究所(NCI)によるSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)登録プログラムの1998年から 2012年までのデータを使用した。

「いま甲状腺がんは、実に重要な問題なのです」とSosa医師。さらに「これは若年・中年に発生することの多いがんです。生命にかかわることはまれで、患者さんの圧倒的多数は診断後もずっと生存します。これらのことから、我々は非常に若い患者ではがんの進行度を過小評価している可能性があります。そしてその場合、不十分な治療しか行われないことになる可能性があり、その後の経過観察がおろそかになったり、再発や場合によっては寿命を縮めるリスクが高いまま放置されることもあり得るのです」と続けた。

AJCCガイドラインの改訂版は1月に施行され、引き続き年齢に応じてガイドラインを分けることを推奨するが、年齢の区切りを55歳に引き上げる。

改訂版の根拠となったデータは、予後が変化する区切り となる年齢があるという仮定のもとに作成されたモデルに基づいている、とデューク大の著者らは述べている。

デューク大の統計モデルは、一歩引き下がって、死亡のリスクが有意に変化する区切り年齢が存在するという仮定を取り払って設計された。そして実際にそのような区切り年齢は存在しなかったことを確認した、と述べた。

「我々は予後の変化を柔軟に見出せる精巧な方法を用いました。それは10以上の異なる方法であり、どの方法を用いても死亡のリスクが有意に変化する区切り年齢は無いことが判明したのです」とデュークがん研究所生物統計学ディレクターで本研究共著者のTerry Hyslop博士は述べた。「すべての解析において、死亡リスクは年齢とともに等しく増加していくことが示されました。このため死亡のリスクと年齢を直線関係で結ぶことができ、これを用いて死亡リスクの推定ができます」。

年齢をベースとした基準についての研究を継続し、その結果を今後のAJCC改訂版作成に反映させる必要がある、と本研究の著者らは言う。

Sosa医師は「これは最初の研究にすぎません」と述べた。「研究を再検証し、もっと洗練されたものにすることが重要です。我々は皆、柔軟な心を持つ必要があります。そうすることによって変化を受け入れ、患者さんへ説明する枠組みを大きく改訂することも可能になるでしょう」。

本研究の著者には、Sosa、Hyslopの他に以下の諸氏が含まれる。Mohamed Abdelgadir Adam, M.D.; Samantha Thomas M.S.; Randall P. Scheri, M.D.; and Sanziana A. Roman M.D。

本研究はデュークがん研究所から助成金を受けた。Sosa医師はNovo Nordisk社, GlaxoSmithKline社、AstraZeneca社、Eli Lilly社の支援によるData Monitoring Committee of the Medullary Thyroid Cancer Consortium Registryのメンバーである。その他の著者らは競合する利害関係にない。

翻訳担当者 中村由紀子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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