乳がんサバイバーのリンパ浮腫の検査

MDアンダーソン OncoLog 2016年9月号(Volume 61 / Issue 9)

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乳がんサバイバーのリンパ浮腫の検査

先取り検査で早期診断と治療をうながす

乳がん治療後の患者を悩ませる副作用のひとつにリンパ浮腫がある。リンパ浮腫は、早期の診断と治療によって回復が見込めるため、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、リンパ浮腫のリスクが高い患者を特定し、検査を実施するプログラムを整備している。

乳がんの手術では、腋窩リンパ節の一部または全部を切除しなければならない場合がある。また、所属リンパ節(内胸、腋窩、鎖骨上リンパ節床を含む)への放射線照射がリンパ系を損傷することもある。体がリンパ液を排出できなくなると、滞ったリンパ液の流れによって患者の四肢にむくみが生じる。乳がん患者ではこの症状が腕に出やすい。

「リンパ浮腫は患者の生活の質を損ないます。腕が通常よりはるかに太くなり、重く、痛みを感じます。服が着られなくなったり、平常の活動に支障をきたすこともあります」と、腫瘍放射線治療科の准教授、Simona Shaitelman医師は語る。「リンパ浮腫は早期に診断しなければ、残念ながら完全な回復はほぼ望めなくなります」。

Shaitelman氏は、リンパ浮腫のリスクが高い患者(乳がん治療で腋窩リンパ節郭清術を受けた、所属リンパ節への放射線照射を受けたなど)は、治療後すぐに理学療法士の指導を受けるよう勧めている。「予防のため自宅でできる運動を理学療法士から教わることができますので、リンパ浮腫のリスクが抑えられます。とても心強いことですよね」。また、Shaitelman氏は、高リスクの患者に対しては先取り検査による長期のフォローアップも行っているという。

リンパ浮腫の先取り検査

Shaitelman氏らはMDアンダーソンで、できるだけ早期にリンパ浮腫を診断するための先取り検査を実践している。乳がんセンターでは、患者が何らかのかたちでリンパ節に対する治療を受ける場合、治療前にペロメーターで腕の太さを計測する。高リスクの患者がフォローアップ検診のためMDアンダーソンに戻ってきたら、検診でバイタルサインをチェックする際に腕の計測も実施する。腕が太くなっていれば、理学療法士を紹介する。

ペロメーターによる測定の精度向上

乳がんセンターでは、計測ミスを避けるため、ペロメーターを使った測定の訓練を受けさせた医療補助者2人をリンパ浮腫検査の専任としている。ペロメーターは赤外線を使って腕の体積を測定するので、巻き尺を使った標準的な測定法よりも早くリンパ浮腫を見つけ出すことが可能だ。しかし、Shaitelman氏らは、先取り検査を行うようになってから、ペロメーターによる測定値の信頼性が期待したほど高くないことに気がついた。

「測定結果を再現性のあるものにして、誤診しないようにしたいと思いました」と、Shaitelman氏。このため、業績改善担当オフィスの医療システム上級エンジニア、Parviz Kheirkhah博士の協力を仰いで、ペロメーターによる測定の最善化を図った。機器や機器の設置場所に近い壁に、高さを変えられるハンドルバーを取りつけた。このハンドルバーを使えば、患者が測定に最適な安定した体位を維持することができる。バーを取りつけた後、ペロメーターによる測定値の変動は28%減少した。

ケアの連携

MDアンダーソンでは、北米リンパ浮腫協会の認定を受けた理学療法士がリンパ浮腫患者を診察する。患者は通常、用手的リンパドレナージ、弾性着衣を用いた圧迫療法などを組み合わせた複合理学療法を受ける。複合理学療法の効果がみられない場合は形成外科医が紹介される。形成外科のMark Schaverien医師、Edward Chang医師、Matthew Hanasono医師は、微小血管外科(マイクロサージェリー)を専門としており、その技術によってリンパ液の排出を改善してリンパ浮腫を緩和する。

「どの患者から形成外科に紹介すべきか、その優先順位を系統的に判断することができるようにスクリーニングプログラムの向上に努めています」とShaitelman氏は言う。「当センターの形成外科の専門技術をうまく活用して、こうした治療も可能であることを知ってもらいたいですね」。現在、実施されている研究が、こうした検査と優先順位づけの改善につながるのではないかと期待されている。

臨床試験

乳がん外科の准教授、Sarah DeSnyder医師は、MDアンダーソンで実施されている多施設共同臨床試験(2014-0911)における試験責任医師だ。この試験では、生体インピーダンス分光法を用いた細胞外液の測定によって、標準的な巻き尺による測定よりも早く無症状のリンパ浮腫が検出されるかどうか、それが早期治療と進行率の低下につながるかどうかが検討されている。この試験ではほかに、リンパ浮腫進行に関連する因子(BMI、漿液腫、喫煙状態、年齢、飛行機での旅行)、複合理学療法が必要になるほど進行するまでの期間、無症状のリンパ浮腫の検出と早期介入が、巻き尺による測定で介入がより遅くなった場合に比べて症状および生活の質の改善をもたらすかどうか、といった点も検討されている。試験には、浸潤性乳がん、非浸潤性乳管がんのため手術が予定されている患者が組み入れられている。

また、別の臨床試験では、Shaitelman氏とDeSnyder氏に加えて、Elizabeth Mittendorf医師(医学博士、乳がん外科准教授)、Melissa Aldrich博士(テキサス大学健康科学センター・ヒューストン校の分子イメージングセンター准教授)が共同で、リンパ浮腫の免疫マーカー、炎症マーカーを検討する予定だ(2016-0170)。この試験は、局所進行乳がんで腋窩リンパ節郭清術を受ける患者、所属リンパ節への放射線照射を受ける患者の登録をまもなく開始する。ごく微量の染料で患者の腕のリンパ節を視覚化した蛍光イメージング法を用いて、リンパ系の初期の変化と血清中の免疫マーカー、炎症マーカーとの関連を調べる予定だ。

「われわれは、リンパ浮腫は自己免疫反応ではないかという仮説を立てています」と、Shaitelman氏。この仮説は複数の分野のデータをもとにしたものだという。「免疫関連のリンパ浮腫のバイオマーカーを発見できれば、高リスク患者の特定精度が向上してリスク低下の指導が的確になりますし、治療標的を見つけ出すことができます」。

これらの試験の結果の妥当性が認められれば、リンパ浮腫の先取り検査に組み込まれる。Shaitelman氏は次のように語る。「プログラムは科学に基づく柔軟なものにしたい。リンパ浮腫を検出し、治療する技術の進歩を取り込んで、早期診断と治療による回復を目指したいのです」。

現在のリンパ浮腫検査と研究に関するプログラムは乳がんサバイバーの生活の質向上に焦点を当てたものではあるが、こうした取り組みの成果は、ほかの部位のがんにも応用できるものだろう。リンパ浮腫の先取り検査に参加した乳がん患者の転帰に関して長期データが得られるようになれば、プログラムは、頭頸部がん、メラノーマ、婦人科悪性腫瘍によるリンパ浮腫の検査にも適合させることができる。

For more information, contact Dr. Simona Shaitelman at 713-563-8491.

【画像キャプション訳】 ペロメーター。腕の体積を測定してリンパ浮腫による変化を早期にキャッチする。実演してくれたのはMDアンダーソンのネリー・B・コナリー乳がんセンター看護師長代理Jazzmun Robinson氏(正看護師)

——Jill Delsigne-Russell

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翻訳担当者 市中芳江

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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