トラスツズマブとバイオシミラーの進行乳がんに対する有効性と安全性は同等

プレスリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「十年以上前、トラスツズマブは、がん治療を一変する革新的な分子標的薬時代を切り開く薬の一つとして登場し、HER2陽性乳がん女性の展望を変えました。今回の初期データでトラスツズマブのバイオシミラー(バイオ後続品)とトラスツズマブとの同等性が裏づけられたことは、命を救いうるこの治療薬に対し、さらに多くの患者がアクセスできるようになる可能性を提供することでしょう」。ASCOの乳がん専門医で米国内科学会名誉上級会員(FACP)のDon Dizon医師は、本日の記者会見の司会でこのように述べた。

バイオシミラー・トラスツズマブ抗体(MYL-1401O)は、米国食品医薬品局(FDA)がHER2陽性の進行乳がんの女性に対して承認した乳がん治療薬トラスツズマブ(ハーセプチン)と、有効性と安全性における同等性が第3相ランダム化比較試験で示された。奏効率は、トラスツズマブまたはMYL-1401O投与を受けたいずれの女性においても同程度で、安全性についても両群間で有意差はなかった。

この試験は本日の記者会見で取り上げられ、2016年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部教授で代表著者であるHope S. Rugo医師は次のように述べている。「トラスツズマブは著しくHER2陽性乳がん女性の生存を改善しましたが、高コストのためにトラスツズマブの恩恵を受けることができない女性が世界には数多くいます。私たちは、バイオシミラーの開発により、すでに世界中で何万人もの人々に生存利益を与えてきたこの有効な薬を、さらに多くの患者に届けられればと期待しています」。

試験について

第3相ランダム化比較試験は、アジア、ラテンアメリカ、アフリカ、ヨーロッパの95施設で実施された。HER2陽性、転移性乳がん女性500人が、初回治療として、タキサンによる化学療法に加えてトラスツズマブまたはMYL-1401Oのいずれかで治療を受けた。

患者は、化学療法とトラスツズマブまたはMYL-1401Oのいずれかを8サイクル以上実施し、その後、疾患が進行するまでトラスツズマブ単独療法を受けた。この治療計画は、転移性乳がんの治療のため、臨床診療および臨床試験の両方で使用されるトラスツズマブ投与レジメンと一致していた。奏効率は、化学療法とトラスツズマブまたはMYL-1401Oのいずれかとの併用治療の実施後24週時点で評価された。

試験の主要な結果

本試験では、MYL-1401Oは、有効性と安全性においてトラスツズマブと同等であること、そして、同薬が免疫応答を誘発しない(低い免疫原性)ことが示された。

治療後24週時点の客観的奏効率は、MYL-401Oでは69.6%、トラスツズマブでは64%であった。奏効率に基づく有効性で差がないことは、あらかじめ定義された狭い同等性マージン(限界値)の範囲内であった。

免疫原性および安全性は、治療群間で同等であった。また重篤な有害事象の発生率は、トラスツズマブ群では36%、MYL-1401O群では38%であり、重篤な副作用のうち最も多かったのは低血球数(好中球減少)であった。両群の心機能の測定値に差はなかった。両群とも4例の治療関連死があった。

「われわれの知る限り、これは先発の治療薬に対するトラスツズマブのバイオシミラーの同等性を示す最初の臨床試験の一つです」と、Rugo医師は述べた。

研究者らは、MYL-1401Oとトラスツズマブについて、生物学的および物理化学的特性の類似性を示すデータをすでに得ている。こうしたデータ解析は、バイオシミラー申請のための規制当局の要件の一部である。

次のステップ

著者の希望は、これらのバイオ医薬品への世界的なアクセス向上を目指し、他のバイオシミラーの実用化や、バイオシミラー併用療法探索のための将来の臨床試験を計画することだという。

HER2陽性の乳がんについて

乳がんは、世界で最も多い女性の悪性腫瘍で、2012年には、170万人が新たに診断されている[1]。すべての乳がんの約4分の1がHER2陽性(異常なHER2遺伝子を持っている)である。

1998年にFDAに承認されたトラスツズマブは、HER2タンパクを標的とする最初の治療薬であった。米国では、トラスツズマブは初期または後期ステージの乳がん患者の治療に承認されている。進行期の疾患に対し、標準的な化学療法にトラスツズマブを追加することにより、化学療法単独に比べて、5〜8カ月の生存の改善をもたらした[2]。また、早期乳がんに対し、化学療法にトラスツズマブを1年間追加すると、再発リスクが10%以上低下し、生存率が9%近く改善することが示されている[3]。

トラスツズマブはまた、HER2陽性の胃がん患者を治療するためにも用いられる。

バイオシミラーについて

米国食品医薬品局(FDA)は、すでに承認され、米国での使用が認可された製品に、安全性、純度、および有効性において「きわめて類似した」バイオ医薬品を、「バイオシミラー(バイオ後発品)」と考える。

現時点でバイオシミラーとして米国や欧州で承認されたがん治療薬はない(FDAは昨年、支持薬のバイオシミラーを承認した)。進行中の臨床試験では、がんの生物学的治療薬であるリツキシマブやベバシズマブなどのバイオシミラーを検証中である。これらのバイオシミラーは、近い将来、市場に出ると予測される。

2015年10月には、FDAの推奨するバイオシミラーの要件において、ASCOは意見を提供している。「バイオシミラーは、安全性、有効性、および免疫原性において十分な類似性が臨床試験で示されていること」「バイオシミラーの命名規則は、安全性の確保と、投与時の医師の負担を増加しないこと」「バイオシミラー製品は、意味のある市販後安全性調査の対象とすべきこと」「患者にバイオシミラー製品を処方する裁量権は医師が有すること」

この研究は、Mylan社から資金提供を受けた。

 1http://www.wcrf.org/int/cancer-facts-figures/data-specific-cancers/breast-cancer-statistics Accessed May 20, 2016
2Balduzzi S, Mantarro S, Guarneri V, et al. Trastuzumab-containing regimens for metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev; 2014
3Perez EA, Romond EH, Suman VJ, et al. Trastuzumab plus adjuvant chemotherapy for human epidermal growth factor receptor 2-positive breast cancer: planned joint analysis of overall survival from NSABP B-31 and NCCTG N9831. J Clin Oncol. 32(33):3744-52; 2014

翻訳担当者 野中希

監修 原 文堅 (乳腺/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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