心血管疾患および大腸がんの一次予防としてのアスピリン(リーフレット)

心血管疾患および大腸がんの一次予防としてのアスピリン使用

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、心血管疾患および大腸がんの一次予防としてのアスピリン(アセチルサリチル酸)使用について最終的な推奨グレードを発表しました。本委員会によると、年齢や危険因子により、アスピリンを低用量服用することが成人の心血管疾患(CVD)および大腸がん(CRC)の予防に役立つことが判明しました。

この最終的な推奨グレードは、これまでに心血管疾患(心臓発作や脳卒中の既往歴があるなど)と診断されたことがなく、出血リスクの増大のない40歳以上の成人に適用されます。

本委員会は心血管疾患および大腸がん両疾患の一次予防としてのアスピリン服用による利益および不利益に着目しました。一次予防とは疾患の何らかの徴候や症状が現れる前に予防することを目的としています。

本委員会の最終的な推奨グレードの要約は以下のとおりです。

・心血管疾患リスクが高い50~59歳の大部分の成人は、かかりつけ臨床医と相談の上、アスピリンを毎日、低用量服用すべきである。

・心血管疾患リスクが高い60~69歳の成人は、アスピリンを毎日低用量服用するかどうかについて、かかりつけ臨床医と相談の上、意思決定すべきである。

・50歳未満および70歳以上の成人では、心血管疾患および大腸がん予防を目的としたアスピリン使用の是非を推奨するための利益および不利益についての十分なエビデンスがない。

心血管疾患とは・・
心血管疾患(CVD)とは、血管が狭くなったり詰まったりするなどの幅広い範囲の症状を指すもので、心臓発作や脳卒中を引き起こします。

大腸がんとは・・
大腸がん(CRC)は結腸や直腸で発症するがんです。結腸および直腸は、身体の消化器系を構成する大腸の一部です。

アスピリンとは・・
アスピリン(アセチルサリチル酸)は疼痛、発熱、腫脹を緩和するために使用される一般用医薬品で、血管内で血液が固まるのを予防します。

心血管疾患および大腸がん

米国では、心血管疾患およびがんは成人の主要な死亡原因となっています。実際に2011年には、米国の全死亡者数の半数以上が心血管疾患またはがんによるものでした。大腸がんは男女ともに3番目に多く診断されるがんであり、がんによる死亡の主な原因となっています。

成人が心血管疾患に罹患するリスクは、年齢、性別、人種、総コレステロール値、高密度リポタンパク(HDL)コレステロール値および血圧など多くの要因に基づいて評価されます。また、心血管疾患のリスクは、糖尿病の有無、喫煙、血圧の薬を服用しているかによっても影響を受けます。かかりつけ臨床医がこのリスクを評価するためには算出表が役に立ちます。

心血管疾患や大腸がんのリスクを低減することは、禁煙、健康な食生活および運動をすることで、誰でも可能です。血圧およびコレステロール値を管理することも心血管疾患予防に役立ちます。また、大腸がん予防においては、定期的に検診を受けることが重要です。

心血管疾患および大腸がん予防を目的としたアスピリンの利益および不利益

本委員会は心血管疾患および大腸がんの一次予防としてのアスピリン服用による全体的な利益および不利益について指摘しました。心血管疾患のリスクが高い50~69歳の成人で出血リスクが高くない場合においては、アスピリンは心臓発作や脳卒中の予防に役立つことが判明しました。各個人の出血リスクは、年齢、性別、他の健康状態、現在服用している薬、また以前の出血障害の既往に基づいてかかりつけ臨床医が判定することが可能です。

本委員会はまた、5~10年間アスピリンを服用することは大腸がん発症の可能性を減少しうることも明らかにしました。しかしながら、一次予防のためにアスピリンを服用することで得られる利益が不利益を上回るのは、心血管疾患のリスクが高い人においてのみです。本委員会は大腸がんリスクが高い人ではなく、心血管疾患リスクが高い人に対してアスピリンを服用し始めるよう推奨しています。

本委員会により、アスピリンの使用が不利益をもたらしうることも判明しました。アスピリン使用により、胃や腸管での出血および脳内の出血による脳卒中の可能性が高まります。人間は年をとるにつれ出血の可能性が高まるため、こういった不利益は50~59歳の成人では低い傾向にありますが、60~69歳の成人ではより高くなる傾向にあります。

本委員会はまた50歳未満および70歳以上の成人がアスピリンを服用した場合の利益および不利益の可能性に関する研究を探しましたが、これらの年齢層に対して推奨できる十分なエビデンスは見つかりませんでした。

心血管疾患およびがんを予防するためのアスピリンに関する最終の推奨グレードが意味するものとは

本委員会による心血管疾患および大腸がん予防のためのアスピリンに関する最終推奨グレードを下記に掲載します。

推奨文ではアルファベットの文字(A、B、C、D、I)によりグレードが示されます。グレードは今回の目的におけるスクリーニングの予測される利益および不利益に関するエビデンスの質と強度に基づいたものです。また、グレードは予測される利益および不利益の大きさにも基づいています。本委員会の推奨グレードについては、このファクトシート下部の枠内に説明を記載しています。

本委員会が予防医学の使用について推奨グレードBと判定するのは、予測される利益が不利益を上回る場合です。エビデンスにより、ある個人集団において、予防医学が少しでも利益があると示される場合、本委員会はグレードCと定めます。利益および不利益を判断するに十分なエビデンスがない場合は、推奨せず、Iグレードとします。注釈で主要な考えを説明します。

最終的な推奨グレードの完成版は本委員会のWebサイトをご覧ください。推奨では本委員会が審査したエビデンスおよびグレードが、エビデンスに基づいてどのように決定されたかを説明しています。エビデンスの報告書では本委員会の審査した試験研究について、より詳細に記述しています。

1.本委員会は、10年以内の心血管疾患(CVD)リスクが10%以上(*注釈1)で、出血リスクの増大がなく、余命が10年以上見込めて*、10年以上、毎日アスピリンを低用量服用する意志がある50~59歳の成人に対して、心血管疾患(CVD)と大腸がん(CRC)の一次予防*を目的とした低用量のアスピリン*使用開始を推奨します。[グレードB]

*注釈1

低用量のアスピリン
アスピリンの用量は81mg。小児用アスピリンとも呼ばれる。(*サイト注:市販の小児用アスピリンの成分はアスピリンでないことがある)

一次予防
疾患(たとえば、最初の心臓発作など)が新たな場所で発症することを防ぐための手段。

10%以上の10年間に心血管疾患を発症するリスク
向こう10年以内に心血管疾患を発症する確率が10分の1

余命が10年以上見込める
あと10年以上生きると予測されること

2.10年以内の心血管疾患リスクが10%以上の60~69歳の成人においては、心血管疾患および大腸がんの一次予防を目的とした低用量のアスピリン服用開始は個人により決定されます。出血リスクが増大しておらず、余命が10年以上見込めて、10年以上、毎日アスピリンを低用量服用することが苦でない人は、利益がある傾向にあります。不利益よりも利益を重視する(*注釈2)場合は、低用量のアスピリンの服用を始める人もいます。グレードC]

*注釈2
不利益よりも利益を重視
毎日のアスピリン使用において不利益よりも利益を重視する人々

3.50歳未満の成人については、心血管疾患および大腸がんの一次予防を目的としたアスピリン使用について利益と不利益のバランスを評価するのに現在のエビデンスでは不十分(*注釈3)です。グレードI]

*注釈3
現在のエビデンスでは不十分
本委員会はその年齢集団において、アスピリン使用の是非を推奨するのに十分なエビデンスを見つけられなかった。

4.70歳以上の成人については、心血管疾患および大腸がんの一次予防を目的としたアスピリンの使用開始について、利益と有害性のバランスを評価するのに現在のエビデンスでは不十分です。グレードI] 

低用量のアスピリン服用を始めるかについて、かかりつけ医師と相談する

最善のヘルスケアを行うとは、検診、カウンセリングサービス、予防医学について賢く決断することです。多くの人が必要な検査や薬物処方を受けていません。不必要な、不利益の検査や投薬を受ける人もいます。本委員会の推奨グレードは皆さんが検診やカウンセリング、予防医学について学ぶことを支援します。これらのサービスは、皆さんと皆さんの家族が健康で過ごし、病気を予防するのに役立ちます。

アスピリンは処方箋なしで入手できる一般用医薬品ですが、アスピリンを服用し始める前に担当のかかりつけ臨床医に相談して下さい。アスピリン服用に関連した深刻な有害性があること、および、あなたの年齢と危険因子によって利益および不利益があるため、かかりつけ臨床医に相談することは大切です。疑問点や懸念点に答えてもらうようにしましょう。自分の健康とライフスタイルを考慮しましょう。自分のヘルスケアの好みと、向こう5年以上毎日服用することについて、考えましょう。また、本委員会による、今回のような科学的根拠に基づく推奨グレードも考慮して下さい。忘れてはいけないのが、アスピリンは心血管疾患および大腸がん予防の一部であり、健康な生活習慣と推奨される検診を受けることも予防につながるということです。

米国予防医学専門委員会とは

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、予防医学、科学的根拠に基づく医療における国家の専門家からなる独立した団体です。本委員会は、検診、カウンセリング、予防医学のような臨床的な予防医療に関する科学的根拠に基づく推奨を作成することにより、全ての米国人の健康の改善に取り組んでいます。本推奨は、議論中の疾患についての徴候または症状のない人を対象とします。

推奨文を作成するため、委員会のメンバーは、議題に関する利用可能な最善の科学および研究について検討しています。各議題に対し、本委員会は、推奨声明の草案などのドラフト文書を掲載し、パブリックコメントを求めています。最終的な推奨グレードを作成する際に、全てのコメントを再調査し検討します。詳細については本委員会のウェブサイトを参照下さい。

USPSTFの推奨
グレード定義
A推奨する
B推奨する
C個人の状況により推奨する
D推奨しない
I推奨するための十分なエビデンスがない

*心血管疾患および大腸がんについての詳細(英語)*

冠状動脈性心疾患とは(米国国立心肺血液研究所)

脳卒中とは(米国国立心肺血液研究所)

ミリオンハーツキャンペーン:予防(疾病予防管理センター)

大腸がん(米国国立がん研究所)

大腸(結腸)がん(疾病予防管理センター)

翻訳担当者 宮本満里

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

TP53変異陽性がんにトリフルリジン・チピラシルとタラゾパリブの併用は有望の画像

TP53変異陽性がんにトリフルリジン・チピラシルとタラゾパリブの併用は有望

研究者らは、TP53遺伝子に変異があるがん細胞を選択的に殺す薬剤組み合わせを特定した。その遺伝子変異は、大半の大腸がんや膵臓がんなど、あらゆるがん種の半数以上にみられる。

NCIが一部資...
大腸がんの増殖にFusobacterium nucleatum亜型が最大50%関連の画像

大腸がんの増殖にFusobacterium nucleatum亜型が最大50%関連

フレッドハッチンソンがん研究センターNature誌に発表された研究によると、Fusobacterium nucleatumの亜型がヒトの大腸がん増殖の根底にあり、スクリーニングや治療に...
大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性の画像

大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ転移が始まった大腸がんに対する手術の後、多くの人はそのまま化学療法を受ける。この術後(アジュバント)治療の背景にある考え方は、がんが体内の他...
認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足の画像

認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足

オハイオ州立大学総合がんセンター仕事中にあまり身体を動かさず肥満率が上昇している現代アメリカでは、何を飲食し、どのくらい身体を動かすかによって大腸がん(30〜50代の罹患者が増...