甲状腺がん罹患率、数十年上昇した後に横ばいに

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

数十年間上昇し続けてきた米国の甲状腺がん罹患率が横ばいに転じた可能性が、 新たな研究で明らかになった。近年の新規症例数はなおも増加しているが、その増加率は過去のものに比べてきわめて低い。

米国の甲状腺がん罹患率は、1990年代前半に上昇し始め、2013年には30年前の3倍に上昇した。しかし、新たな解析では、2009年には横ばいとなって以降、2012年まで比較的安定して推移していることが明らかになった。本知見は、4月14日付のJAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery誌で発表された

変化の要因は不明である。しかし、研究者らによると、変化が生じた背景には、甲状腺腫瘍のうち、悪影響を及ぼす可能性が低く、きわめて微小で進行が遅い腫瘍の検出力が向上したことに原因があることを、医師や一般市民が認識するようになったことであるという。そのような腫瘍あるいは結節は、スクリーニングの実施および超音波をはじめとする科学技術の活用によって検出される。

研究を主導した、スローンケタリング記念がんセンターのLuc G. T. Morris医師は「医学的問題を生じる可能性がほとんどない微小な甲状腺結節を医師らが検出し、診断している事実が広く認識されつつあります。そうした微小な結節を触診で発見することは、まずありません」と述べた。

傾向の変化

米国国立がん研究所(NCI)によるSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムのデータをもとに、1988年から1998年に甲状腺がん罹患率が毎年3%ずつ上昇したことを研究者らは明らかにした。その後の11年間は、毎年6.7%ずつ上昇した。2009年から2012年の間も上昇は続いたが、毎年の上昇率は1.75%でそれ以前のものよりもはるかに低かった。

研究の発表後ほどなく、SEERプログラムは、データが入手可能な最新年である2013年の甲状腺がん罹患率および死亡率の統計を発表した。2013年の罹患率は、前年よりもわずかに上昇したのみであった。

Morris博士は「更新されたSEERデータを見ても、それまでの横ばい傾向はやはり盤石です。微小な甲状腺がん(1センチメートル未満)の罹患率の増加率は、毎年9%で安定して推移しています」と述べた。

研究著者らによると、米国の甲状腺がん罹患率の急激な上昇は、疾患の蔓延というよりはむしろ「診断の蔓延」と認識されている、という。医学的問題を生じることのない結節の検出は、過剰診断の名で知られる。

NCIがん予防部門長のBarry Kramer医師は、本研究に参加していないが「過剰診断は重要です。患者の健康に影響を与えるためです。影響の1つには、患者に利益をもたらさない緩慢性の甲状腺結節への積極的な外科的治療も含まれるでしょう」と述べた。

「しかし、過剰治療は不必要な治療による悪影響を患者にもたらします。そうした悪影響には、不安や医療費に加え、甲状腺機能の低下、嗄声、および血中カルシウム値の低下をはじめとする長期的で重大な副作用があります」とKramer博士は付け加えた。

こうした過剰診断による問題に対処するため、生検を実施すべき結節に関する医師向けガイドラインを複数の専門機関が策定している。たとえば、米国甲状腺学会は2009年、微小で形状が良性である結節に対する生検を行わないよう勧告するガイドラインを策定した。

甲状腺腫瘍分類の修正

上記のような進行が遅いあるいは緩慢性の腫瘍に対する治療を減らすため、先ごろ専門家による国際的な委員会は、甲状腺乳頭腫瘍の分類の1つを修正し、「がん」という語を分類名から削除した。

4月14日付のJAMA Oncology誌での当該委員会による記述によると、その分類は非浸潤性の被包性濾胞型甲状腺乳頭がん(EFVPTC)として知られるもので、新規症例数は過去数十年で増加しており、現在は欧州および北米で診断された甲状腺がんの10~20%を占めるという。委員会は、そうした腫瘍は有害転帰を生じるリスクがきわめて低いことに言及し、非浸潤性のfollicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features(NIFTP)と称することを提唱した。

ニューヨーク大学ランゴン医療センターのKepal N. Patel医師は、この修正について付随論説の中で「時宜を得た適切な変更」であると評し、全世界で年間45,000人以上の患者のケアおよび治療に影響を与えるであろう、と述べている。

この新たな分類は、低悪性度甲状腺腫瘍の過剰治療の抑制を試みる「大きな物語の中の1章」であるとMorris博士は言う。

博士らは、今後数年の罹患率データによって罹患率の安定が継続するか否かが決まると記している。また、そのような傾向が続くと、公衆衛生に影響が生じるだけではなく、「低リスク甲状腺がんの検出および治療に対しどこまで積極的に行うべきかについての適正レベル」が定まるだろう、と結論として述べた。

【動画訳】知っていましたか。甲状腺がんの統計

甲状腺がんは、米国で8番目に多いがんであるが、治療が可能であることが多く、多くは治癒も可能である。この動画では統計も交え、キーポイントをいくつかを示す。

翻訳担当者 前田 愛美

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

甲状腺がんに関連する記事

甲状腺結節が見つかることは多い:首元の検査後にすべきことの画像

甲状腺結節が見つかることは多い:首元の検査後にすべきこと

甲状腺結節は珍しくはなく、甲状腺の不規則な増殖(過形成)であり、悪性ではないことが多い。、しかし、時々頸部をチェックして、なにか心配なことがあれば医療チームに伝えるべきとされる。アラバマ大学バーミンガム校(UAB)のオニール総合がんセンター
プラルセチニブはRET遺伝子融合に対し、腫瘍部位によらない組織横断的な有用性を達成の画像

プラルセチニブはRET遺伝子融合に対し、腫瘍部位によらない組織横断的な有用性を達成

あらゆるがん種で有効な選択肢となる分子標的療法の可能性が、第1/2相試験で示唆される 高選択性RET阻害薬プラルセチニブ(販売名:GAVRETO、Blueprint Medicines Corporation社)は、腫瘍部位にかかわらず、R
米国女性に甲状腺がん診断数がなぜ急増しているかの画像

米国女性に甲状腺がん診断数がなぜ急増しているか

甲状腺がんの診断は、男性と比較して女性に多く、過去数十年の間にこの性差は大幅に拡大している。 しかし新たな研究により、この性差は表面的にみえているものとは異なることが判明した。8月30日、JAMA Internal Medicine誌に掲載
FDAが12歳以上の分化型甲状腺がんにカボザンチニブを承認の画像

FDAが12歳以上の分化型甲状腺がんにカボザンチニブを承認

2021年9月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、VEGFR(​​血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とした治療後に進行した、放射性ヨウ素治療に不適応または抵抗性の局所進行性/転移性分化型甲状腺がん(DTC)の成人および12歳以上の小児患者