身体活動が前立腺がんの予後を改善する可能性

ニューオリンズ―中強度から高強度の身体活動を維持している前立腺がんの患者とサバイバーにおいて、生存予後が改善する可能性があることが、2016年4月16日~20日に開催された米国がん学会(AACR)年次総会で発表された研究により明らかになった。

「われわれの研究結果は、前立腺がんサバイバーは身体活動ガイドラインに従うべきだというエビデンスを支持するもので、医師は前立腺がん患者に身体活動を取り入れたライフスタイルを推奨していくべきであると示唆しています」と、主著者でアトランタのアメリカがん協会、疫学研究プログラム(Epidemiology Research Program)シニア疫学研究者であるYing Wang医学博士は述べた。

先行研究では、激しい身体活動が前立腺がん特異的死亡(PCSM)リスクを減らす可能性があることを示している。本研究は、PCSMリスクの低下が、前立腺がん診断前後の中強度から高強度の身体活動に関連していることを示したとWang博士は述べた。

さらに同氏の研究では、乗り物に座って乗車したり運転すること、テレビ鑑賞、読書など、座って行う活動を含む「座位時間」の影響についても評価しており、その影響は前立腺がん死亡に関連しないことが判明した。

Wang博士および共同研究者らは、Cancer Prevention Study II Nutrition Cohort登録者の一部である男性10,067人のデータを評価した。すべての参加者は、コホートに登録された時期(1992年または1993年)から2011年6月までの間に、転移のない前立腺がんと診断されていた。診断時の年齢は、50歳から93歳までであった。研究期間中、600人が前立腺がんで死亡した。

参加者はレクリエーション身体活動時間と座位時間を報告した。身体活動には歩行、ダンス、自転車、エアロビクス、ジョギング、ランニング、水泳、テニス、ラケットボールなどが含まれた。研究者らは参加者の報告を基に、身体活動の週間平均代謝当量(MET)時間を計算した。

研究者らは、参加者が前立腺がんと診断される前および診断された後の身体活動をそれぞれ評価し、前後ともに同様の有益性がみられたことを確認した。診断時の年齢など複数の因子を補正した後、前立腺がんの診断以前の運動量が週17.5MET時間以上(推奨する最低身体活動量の2倍に相当)であった参加者は、週3.5MET時間(週1時間未満の中速度の歩行に相当)未満であった参加者と比べ、前立腺がん死亡リスクが30%低かった。また、診断以後のレクリエーション身体活動を評価した結果、最も運動量が多かった参加者群は、最も運動量が少なかった参加者群と比べて、前立腺がん死亡リスクは34%低かった。さらに、前立腺がん診断後に診断前の運動量を維持していたか、運動量を増やした患者はいずれも死亡リスクが低かった。

「AACRは、成人に対して1週間あたり、中強度の身体活動を最低150分間、または激しい身体活動を75分間実施するように推奨しています。今回の結果から、このガイドラインに従うことで、より良い予後につながる可能性があると言えます」と、Wang博士は述べた。今後の研究で、診断時の年齢、体格指数(BMI)、喫煙有無により、結果が異なるかどうかを確認できるだろうと、同氏は付け加えた。

研究参加者の約40%が歩行が唯一の運動だったと答えていることから、Wang博士と共同研究者らは、歩行が唯一の運動形態である場合の歩行の有益性についても考察した。診断以前の週4~6時間の歩行は、33%の前立腺がん死亡リスク低下に関連し、また、週7時間以上の歩行は37%のリスク低下に関連していた。診断以降の歩行については、統計学的に有意な関連性は認められなかった。

Wang博士は研究の限界について、参加者が身体活動時間と座位時間のデータを自己報告したことであると述べている。いかなる自己報告データも報告あるいは記憶に誤りが生じやすい。また、他の研究では激しい身体活動が前立腺がん死亡リスク低下に関連していると示唆しているが、本研究では激しい身体活動の影響を単独では調査しなかった。

本研究はAACRの資金援助を受けており、Wang博士には利益相反はない。

翻訳担当者 岐部幸子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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