がんに対する生物学的療法(生物療法)

NCIファクトシート 原文更新日:2013年6月12日

  • 生物学的療法(生物療法)とは何でしょうか。
  • 免疫系とは何でしょうか。また、がんに対する生物学的療法においてどのような役割を担っているのでしょうか。
  • モノクローナル抗体とは何でしょうか。また、がん治療に対してどのように用いられるのでしょうか。
  • サイトカインとは何でしょうか。また、がん治療に対してどのように用いられるのでしょうか。
  • がん治療ワクチンとは何でしょうか。
  • カルメット・ゲラン桿菌療法とは何でしょうか。
  • 腫瘍溶解性ウイルス療法とは何でしょうか。
  • 遺伝子治療とは何でしょうか。
  • 養子T細胞移植療法とは何でしょうか。
  • 生物学的療法の副作用にはどのようなものがありますか。
  • がんに対する生物学的療法の臨床試験に関する情報を得るにはどうしたらよいのでしょうか。

生物学的療法(生物療法)とは何でしょうか。

生物学的療法(注:バイオ医薬品を用いた治療、生物療法とも言う)は、病気を治療するために、生物、生物由来物質、または実験室で生成された生物由来物質を用います。がんに対する生物学的療法には、がん細胞に対抗するために、体の免疫系を刺激するワクチンや細菌を用いるものがあります。このような種類の生物学的療法は、総称して「免疫療法」または「生体応答調節療法」と呼ばれることもあり、がん細胞を直接標的とはしません。抗体や遺伝物質の一部(RNAまたはDNA)などを用いるその他の生物学的療法は、がん細胞を直接標的とします。腫瘍の増殖または進行に関係する特定の分子を阻害する生物学的療法は、分子標的療法とも呼ばれます(詳細は、がん分子標的療法を参照してください)。

がん患者の場合、生物学的療法は、がんそのものの治療や他のがん治療による副作用に対して用いる場合があります。多くの種類の生物学的療法が、米国食品医薬品局(FDA)に承認されていますが、まだ試験段階にあり、主に臨床試験(人を対象とした研究試験)に参加することによって、がん患者が利用できるものもあります。

免疫系とは何でしょうか。また、がんに対する生物学的療法においてどのような役割を担っているのでしょうか。

免疫系は、器官、組織、および分化した細胞の複合ネットワークです。細菌やウイルスなどの異物の侵入はもちろん、がん細胞などの、体の傷ついた細胞、病変細胞、または異常細胞を認識し、破壊します。免疫系が抗原と呼ばれる物質に遭遇した時に、それを異物と認識し、免疫反応が誘発されます。

白血球は、免疫系反応において最も重要な役割を担っています。マクロファージやナチュラルキラー細胞などの一部の白血球は、体内を巡回し、異物の侵入や病変細胞、傷ついた細胞、または死んだ細胞を探し出します。これらの白血球は、一般的な、すなわち非特異的なレベルの免疫防御を行います。

細胞傷害性T細胞やB細胞などのその他の白血球は、特定の標的に対して攻撃します。細胞傷害性T細胞は、微生物や異常細胞を直接破壊することができる化学物質を放出します。B細胞は、侵入してきた異物や異常細胞をつかむ抗体を産生し、免疫系の別の構成要素によって破壊するために標識をつけます。一方、樹状細胞をはじめとするその他の白血球は、細胞傷害性T細胞やB細胞が、確実に効果的な任務を行えるよう支援する役割を担っています。

異常細胞を発見し破壊するための、免疫系の生まれながらに持った能力によって、多くのがんの発症を予防できると、一般的には考えられています。それにもかかわらず、一つもしくは複数の方法を用いて発見を回避することができるがん細胞もあります。例えば、がん細胞は、がん関連抗原を無くし、免疫系に「見つかり」にくくする遺伝子変異を起こすことができます。免疫反応を抑制したり、細胞傷害性T細胞に殺されないようにしたりするために、さまざまな異なる仕組みを用いることもあります(1)。

がんに対する免疫療法の目的は、効果的な抗がん免疫反応に対するこうした障害を取り除くことです。このような生物学的療法は、免疫系の特定の構成要素の働きを回復または活発化させたり、がん細胞が作り出す免疫抑制信号を妨害したりします。

モノクローナル抗体とは何でしょうか。また、がん治療に対してどのように用いられるのでしょうか。

モノクローナル抗体(MAb)は、実験室で生成された抗体で、がん細胞の表面に存在し、正常細胞には存在しない(もしくは低レベルで発現する)タンパク質のような、細胞が発現する特定の抗原と結びつきます。

モノクローナル抗体を生成するため、研究者らは、マウスにヒトの細胞由来の抗原を注射します。次にマウスから抗体産生細胞を採取し、ハイブリドーマとして知られる融合細胞を生成するため、骨髄腫細胞(がん性B細胞)と一つ一つ融合させます。その後、同一の娘細胞またはクローンを生成するために各ハイブリドーマが分裂増殖し、(それが「モノクローナル」という単語の由来です)、抗原と最も強く結びつく抗体を同定するため、さまざまなクローンから分泌される抗体を検討します。このような不死のハイブリドーマ細胞によって、大量の抗体を生成することができます。マウス抗体は、ヒトの免疫反応を引き起こす可能性があり、有効性を減らすと考えられるので、多くの場合、可能な限り大部分のマウス抗体をヒトの抗体に置き換える「ヒト化」が行われます。これは、遺伝子工学を用いて行われます。

がん細胞を破壊する免疫反応を刺激するモノクローナル抗体もあります。B細胞によって自然に生成された抗体と同様に、これらのモノクローナル抗体は、がん細胞の表面を「覆い」、免疫系による破壊を誘発します。この種類のモノクローナル抗体でFDAに承認されているものには、非ホジキンリンパ腫細胞に認められるCD20抗原を標的とするリツキシマブ、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)細胞に認められるCD52抗原を標的とするアレムツズマブなどがあります。リツキシマブは、細胞死(アポトーシス)を直接誘発することもできます。

別のグループのモノクローナル抗体は、免疫細胞の表面にある受容体と結びつくことによって、抗がん免疫反応を刺激し、免疫細胞ががん細胞を含む自らの体の組織を攻撃するのを防ぐ信号を阻害します。このようなモノクローナル抗体の一つであるイピリムマブは、転移性黒色腫の治療用としてFDAに承認されていますが、その他は臨床試験で研究中です(2)。

その他のモノクローナル抗体は、腫瘍の増殖に必要なタンパク質の作用を妨げます。例えば、ベバシズマブは、腫瘍細胞や腫瘍の微小環境内の他の細胞によって分泌される、腫瘍の血管の発生を促進するタンパク質である血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とします。血管内皮増殖因子は、ベバシズマブと結合することで、細胞受容体と相互作用することができなくなり、新たな血管の成長を誘導する信号が妨げられます。同じように、セツキシマブとパニツムマブは、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とし、トラスツズマブは、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)を標的とします。細胞表面の成長因子受容体と結合するモノクローナル抗体は、標的とした受容体が正常な成長促進信号を送るのを妨げます。また、細胞死を誘発したり、腫瘍細胞を破壊する免疫系を活性化したりすることもできます。

がん治療用モノクローナル抗体の別のグループには、免疫複合体があります。これらのモノクローナル抗体は、免疫毒素または抗体薬物複合体とも呼ばれ、植物または細菌毒素、化学療法剤、もしくは放射性分子のような殺細胞物質と結合した抗体で構成されます。この抗体が、がん細胞の表面にある特定の抗原をつかむことで、殺細胞物質ががん細胞に取り込まれます。このように作用する複合モノクローナル抗体でFDAに承認されているものには、B細胞非ホジキンリンパ腫細胞に、放射性イットリウム90を送るためにCD20抗原を標的とする90Yイブリツモマブチウキセタンや、HER-2発現転移性乳がん細胞に、細胞増殖を阻害する薬剤のDM1を送るためにHER2分子を標的とするトラスツズマブ・エムタンシンなどがあります。

サイトカインとは何でしょうか。また、がん治療に対してどのように用いられるのでしょうか。

サイトカインは、白血球によって作られるシグナル伝達タンパク質で、免疫反応、炎症、そして造血(新たな血液細胞の形成)の調節や制御を促します。がん患者の治療には、インターフェロン(INF)とインターロイキン(IL)の2種類のサイトカインが用いられます。3つ目は、造血成長因子と呼ばれる種類で、特定の化学療法レジメンの一部の副作用を弱めるために用いられます。

研究者らは、INFの一種のINF-αが、ナチュラルキラー細胞や樹状細胞のような特定の白血球を活性化することにより、がん細胞に対する患者の免疫反応を高めることを発見しました(3)。INF-αは、がん細胞の増殖を阻害したり細胞死を促進したりすることもあります(4、5)。INF-αは、黒色腫、カポジ肉腫、そしてさまざまな血液がんの治療用に承認されています。

INFと同様に、ILは、体の正常な免疫反応やがんに反応する免疫系の能力において、重要な役割を担っています。研究者らは、T細胞増殖因子とも呼ばれるIL-2などの、12を超える別個のILを同定しました。IL-2は、活性化されたT細胞によって自然に生成され、抗がん免疫反応を増強させる細胞傷害性T細胞やナチュラルキラー細胞などの白血球の増殖を促進します(6)。IL-2はまた、より多くのがん細胞を標的とするため、B細胞による抗体の生成を促進します。Aldesleukin[アルデスロイキン]は、実験室で生成されるIL-2で、転移性腎臓がんや転移性黒色腫の治療用に承認されています。研究者らは現在、Aldesleukin治療とその他の種類の生物学的療法を併用することで、抗がん効果が高まる可能性があるかどうかを研究中です。

造血成長因子は、自然に存在するサイトカインの中でも特別な種類です。全ての血液細胞は、骨髄中にある造血幹細胞から生じます。化学療法剤は、正常な血液幹細胞を含む増殖細胞を標的とするため、化学療法によって、血液幹細胞や血液幹細胞が生成する血液細胞が枯渇させられます。酸素や栄養素を全身に運ぶ赤血球が減少すると、貧血が起こる可能性があります。血液凝固をつかさどる血小板が減少すると、多くの場合異常出血を引き起こします。最終的に、白血球数が減少することで、化学療法を受けている患者は感染しやすくなります。

このようなさまざまな血液細胞集団の成長を促す数種類の成長因子が、臨床で用いるために承認されています。エリスロポエチンは、赤血球の形成を刺激し、IL-11は血小板の産生を促進します。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、両方とも白血球数を増加させ、感染リスクを減らします。このような因子を用いた治療によって、患者が、血球数の減少が原因で、一時的に中止するか薬剤の用量を減らすよう変更しなければならない可能性のあった化学療法レジメンを、継続することが可能になります。

顆粒球コロニー刺激因子と顆粒球マクロファージコロニー刺激因子は、抗がんT細胞の数を増やすことによって免疫系の特定の抗がん反応を高めることもできます。このように、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子と顆粒球コロニー刺激因子は、抗がん免疫反応を強化するために、他の生物学的療法と併用されます。

がん治療ワクチンとは何でしょうか。

がん治療ワクチンは、がんが最初に発生するのを防ぐのではなく、すでに発症しているがんを治療するように設計されています。がん治療ワクチンには、患者の腫瘍細胞に対する免疫系反応を高めるための、がん関連抗原が含まれています。がん関連抗原は、がん細胞の表面や内部に認められるタンパク質または別の種類の分子である場合があり、がん細胞を攻撃するためにB細胞やキラーT細胞を刺激することができます。

開発中の一部のワクチンは、多くの種類のがん細胞の表面や内部に認められる抗原を標的とします。このような種類のがんワクチンは、前立腺がん、大腸がん、肺がん、乳がん、そして甲状腺がんなどのさまざまながんの患者を対象とした臨床試験で検討されています。他のがんワクチンは、特定の種類のがんに特有の抗原を標的とします(7-14)。さらに別のワクチンは、一人の患者の腫瘍に特有の抗原に対して設計され、患者ごとにカスタマイズしなければなりません。FDAに承認されているがん治療ワクチンの一つであるsipuleucel-T[シプリューセル-T]は、この種類のワクチンです。

がんワクチンは毒性がわずかなので、ホルモン療法、化学療法、放射線療法、そして分子標的療法のような、別の種類の療法との併用についても、臨床試験で検討されています。

カルメット・ゲラン桿菌療法とは何でしょうか。

カルメット・ゲラン桿菌(BCG)は、FDAの承認を受けた最初の生物学的療法で、ヒトに病気を引き起こさないように弱毒化された生きた結核菌です。結核ワクチンとして、初めて医学的に用いられました。BCGは、カテーテルを用いて膀胱に直接注入されると、外から入ってきた細菌に対してだけでなく、膀胱がん細胞に対する全身免疫反応も刺激します。BCGが抗がん効果を発揮する仕組みや理由はまだ十分に解明されていませんが、その治療効果は十分に立証されています。初期ステージの膀胱がん患者の約70%で、BCG療法後に寛解が得られています(15)。
BCGは、その他の種類のがんに対する治療においても研究中です(16-18)。

腫瘍溶解性ウイルス療法とは何でしょうか。

腫瘍溶解性ウイルス療法は、実験的な生物学的療法で、がん細胞を直接破壊します。腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞と正常細胞の両方に感染しますが、正常細胞に対する影響はほとんどありません。その一方、がん細胞の内部では複製が容易で、最終的にがん細胞を死滅させます。レオウイルス、ニューカッスル病ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルスのように、本来腫瘍溶解性のウイルスもあれば、麻疹ウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルスなどのように、がん細胞内だけで効率的に複製するよう適応または修正可能なウイルスもあります。さらに、腫瘍溶解性ウイルスは、EGFRやHER-2のような、特定のがん関連抗原を作り出すがん細胞に優先的に感染し、複製するように遺伝子を組み換えることができます(19)。
腫瘍溶解性ウイルスを用いる上での課題の一つは、がんを攻撃する機会を得る前に、患者の免疫系によって腫瘍溶解性ウイルス自体が破壊されてしまう可能性があることです。研究者らは、この課題を乗り越えるため、シクロホスファミドのような免疫抑制化学療法剤と腫瘍溶解性ウイルスを併用投与したり、保護膜の中にこのウイルスを「覆い隠し」たりするなど、いくつか戦略を立てています。しかし、患者の免疫反応は、現に有益なこともあります。つまり、ウイルスを運搬する際に腫瘍溶解性ウイルス療法を妨害する可能性もありますが、腫瘍細胞にウイルスが感染した後、がん細胞の破壊を増強する可能性もあるのです(20-23)。

米国では、使用が承認されている腫瘍溶解性ウイルスはありませんが、中国では、2006年に、頭頸部がん患者の治療に対し、改変アデノウイルスであるH101が承認されました。現在、さまざまな腫瘍溶解性ウイルスが、臨床試験で検討されています。研究者らは、腫瘍溶解性ウイルスがその他の種類のがん治療と併用可能かどうか、また追加治療に対する患者の腫瘍の感受性を高めるために用いることができるかどうかについても研究中です。

遺伝子治療とは何でしょうか。

遺伝子治療は、まだ実験的な治療ですが、生きた細胞に遺伝物質(DNAまたはRNA)を移植することを目的とします。遺伝子治療については、さまざまながんに対する臨床試験で研究中です。

通常、遺伝物質はヒトの細胞に直接挿入できません。その代わりとして、運搬体、すなわち「ベクター」を用いて細胞に運びます。遺伝子治療で通常使われるベクターはウイルスです。ウイルスは、特定の細胞を認識し、そこに遺伝物質を挿入するという特有の能力を持っているというのがその理由です。研究者らは、これらのウイルスをヒトに対してより安全なものにしたり(たとえば、複製したり病気を引き起こしたりすることを可能にする遺伝子を不活性にする)、また標的細胞を認識し入り込む能力を改良したりするために、改変しています。さまざまなリポソーム(脂肪性の粒子)やナノ粒子も、遺伝子治療のベクターとして用いられており、研究者らは、これらのベクターが特定の種類の細胞を標的とする方法を研究中です。

研究者らは、遺伝子治療を用いたさまざまな方法のがん治療について研究中です。がん細胞を標的として破壊したり、またはその増殖を妨げたりする方法もあれば、正常な細胞を標的として、がんと闘う能力を高める方法もあります。研究者らが患者から細胞を取り出し、実験室でベクターを用いてその細胞を治療してから患者に戻す場合もあれば、ベクターを直接患者に投与する場合もあります。研究中の遺伝子治療法の一部を以下に記載します。

・正常に機能するタンパク質を産生しない(またはタンパク質をまったく産生しない)ように変化した腫瘍抑制遺伝子と正常な遺伝子を置き換えます。腫瘍抑制遺伝子(例えばTP53)は、がんを予防する役割を担っているため、これらの遺伝子の正常な機能を復活させることで、がんの増殖を妨げたり、退縮を促進したりする可能性があります。

・腫瘍の増殖を促進する物質を産生する発がん遺伝子の発現を妨げるために、遺伝物質を移植します。長さの短いRNAまたはDNA分子は、遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)と相補的な塩基配列を持ち、ベクターに詰めたり直接細胞に投与したりすることができます。このような長さの短い分子はオリゴヌクレオチドと呼ばれ、mRNAを標的として結びつくことができ、タンパク質への翻訳を妨げたり、さらに分解を引き起こしたりします。

・がんに対する患者の免疫反応を改善します。方法の一つとして、腫瘍に対する免疫反応を刺激するためにサイトカイン産生遺伝子をがん細胞に移植する目的で、遺伝子治療が用いられます。

・化学療法、放射線療法、またはその他の治療に対する感受性を高めるため、がん細胞に遺伝子を挿入します。

・高用量の抗がん剤などの、がん治療の副作用に対する耐性を高めるために、正常な造血幹細胞に遺伝子を挿入します。
・患者のがん細胞に「自殺遺伝子」を移植します。自殺遺伝子は、「プロドラッグ」(毒性のある薬物の不活性形)を活性化することができる物質を産生する遺伝子で、プロドラッグを投与された患者のがん細胞内だけで、毒性のある薬物を作り出します。自殺遺伝子を発現しない正常な細胞は、プロドラッグの影響を受けません。

・がん細胞が新しい血管を形成する(血管新生)のを妨げる遺伝子を挿入します。
遺伝子治療臨床試験の計画、すなわちプロトコルは、臨床試験を実施する前に研究者の所属する機関の2つ以上の審査委員会によって承認されなければなりません。遺伝子治療プロトコルは、全ての遺伝子治療製品を規制するFDAの承認も受けなければなりません。さらに、米国国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受けている遺伝子治療試験は、NIH組み換えDNA諮問委員会(RAC)に登録しなければなりません。

養子T細胞移植療法とは何でしょうか。

養子細胞移植は、患者のT細胞が本来持つ抗がん能力を高めることを目的とした、実験的な抗がん療法です。この療法の一つとして、研究者らは、まず患者の腫瘍に浸潤している細胞傷害性T細胞を採取します。次に、抗腫瘍活性が最も高い細胞を同定し、実験室でそれらの細胞を大量に培養します。その後、患者に自身の免疫細胞を枯渇させる治療を行い、実験室で培養したT細胞を患者に注入します。

その他に、この療法のごく最近開発されたものとして、遺伝子治療の一種でもありますが、研究者らが患者の少量の血液検体からT細胞を分離するものもあります。患者のがん細胞に特異的な抗原を認識する受容体に対する遺伝子を挿入することにより、T細胞の遺伝子を組み換え、これらの遺伝子組み換えT細胞を大量に培養します。次に、遺伝子組み換えT細胞を、免疫細胞を枯渇させた患者に注入します。遺伝子組み換えT細胞によって発現した受容体により、腫瘍細胞の表面の抗原と遺伝子組み換えT細胞が結合し、T細胞を活性化し、腫瘍細胞を攻撃し死滅させるようにします。

養子T細胞移植は、初め転移性メラノーマ(悪性黒色腫)の治療のために研究されました。メラノーマは、腫瘍に浸潤した多くの細胞傷害性T細胞によって大きな免疫反応を引き起こすことが多いのがその理由です。遺伝子組み換えT細胞を用いた養子細胞移植は、その他の固形がんや、同様に血液がんに対しての治療としても研究中です(24-29)。

生物学的療法の副作用にはどのようなものがありますか。

さまざまな生物学的療法に関連する副作用は、治療の種類によって異なります。しかしながら、このような治療では、注入部位での疼痛、腫脹、ヒリヒリする痛み、発赤、そう痒、発疹がよくみられます。

まれではありますが、より重篤な副作用として、1種類もしくは数種類の生物学的療法に、より特異的な副作用があります。例えば、がんに対する免疫反応を刺激するのが目的の療法では、発熱、悪寒、脱力感、めまい、嘔気、嘔吐、筋肉痛または関節痛、疲労、頭痛、時折起こる呼吸困難、血圧の低下または上昇など、数々のインフルエンザ様症状を引き起こす可能性があります。免疫系反応を誘発する生物学的療法では、重度の、さらには致死的な過敏性(アレルギー)反応を生じる恐れもあります。

特定の生物学的療法で生じる可能性のある重篤な副作用は次のとおりです。

モノクローナル抗体
・ インフルエンザ様症状
・ 重度のアレルギー反応
・ 血球数の減少
・ 血液生化学(検査)の変化
・ 臓器障害(通常心臓、肺、腎臓、肝臓または脳)

サイトカイン(インターフェロン、インターロイキン、造血成長因子)
・ インフルエンザ様症状
・ 重度のアレルギー反応
・ 血球数の減少
・ 血液生化学(検査)の変化
・ 臓器障害(通常心臓、肺、腎臓、肝臓または脳)

治療ワクチン
・ インフルエンザ様症状
・ 重度のアレルギー反応

BCG
・ インフルエンザ様症状
・ 重度のアレルギー反応
・ 泌尿器系の副作用
・ 排尿時の疼痛または灼熱感
・ 尿意切迫または排尿回数の増加
・ 血尿
腫瘍溶解性ウイルス
・ インフルエンザ様症状
・ 腫瘍崩壊症候群。元々がん細胞内に含まれていた物質が血流へ放出されることによる、重度で、時に致死的な血液生化学(検査)の変化です。

遺伝子治療
・ インフルエンザ様症状
・ 二次がん。DNAを宿主細胞染色体に挿入する技術によって、腫瘍抑制遺伝子の発現が妨げられたり発がん遺伝子が活性化されたりした場合、がんの発症を引き起こす可能性があります。研究者らは、この可能性を最小限に抑えるために尽力しています。
・ 遺伝子を、生殖細胞を含む正常な細胞に間違って挿入
・ 移植した遺伝子の過剰発現によって、正常な組織が傷つけられる可能性
・ 別の人または場所へウイルスベクターを移植

がんに対する生物学的療法の臨床試験に関する情報を得るにはどうしたらよいのでしょうか。

特定の種類のがんに対する生物学的療法は、FDAの承認を受けたものと実験的なものの両方が、臨床試験で研究中です。以下に記載されている各種生物学的療法の名称は、それぞれの生物学的療法についてがん患者を対象に検討している、現在実施中の臨床試験の説明へのリンク集です。これらの試験の説明は、NCIのウェブサイト上の、NCIのがん臨床試験のリストを検索することでもアクセス可能です。NCIのがん臨床試験のリストには、全米および世界各国の病院や医療センターの試験責任医師によって実施されている研究同様、NCIが資金提供している全ての臨床試験が含まれています。

モノクローナル抗体
サイトカイン療法
ワクチン療法
養子T細胞療法
腫瘍溶解性ウイルス療法
遺伝子治療
DNAオリゴヌクレオチド療法
RNAオリゴヌクレオチド療法

原文

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生田亜以子 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)監修
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翻訳担当者 生田亜以子

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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原文掲載日 

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