脳腫瘍のゲノム基盤がさらに拡大

米国国立がん研究所(NCI)ニュースノート

原文掲載日 :2015年6月10日

ヒト脳腫瘍の一種である多形神経膠芽腫(GBM)は、最も悪性度が高く侵襲性の高い神経膠腫であり、米国国立衛生研究所(NIH)の機関である国立がん研究所(NCI)および国立ヒトゲノム研究所の主導により、がんゲノムアトラス研究(TCGA) ネットワークが初めて系統的に解析したがんである。本解析の初期成果は、有意な変異遺伝子の同定を含め、2008年に報告された。2013年には、TCGAによるGBM の解析はさらに複数の有意な変異遺伝子の同定へと拡大された。2015年6月10日にNew England Journal of Medicine誌で発表された新たな研究では、TCGAの研究者らが300例近くのびまん性低~中悪性度神経膠腫(両方併せて悪性度の比較的低い神経膠腫[LGG]を構成する)を解析した。LGGは、主に成人に発症し、星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫が含まれる。腫瘍の性質が高度に浸潤性かつびまん性であることから、完全な外科的除去はほぼ不可能であり、残存腫瘍は腫瘍の拡大や疾患進行に至る可能性があるが、そのスピードはさまざまである。GBMとは異なり、これらの腫瘍臨床的挙動は様々であり、一部のLGG は数カ月以内にGBMに進行するが、その他は数年にわたり安定した状態を保つ。このような臨床的な差異を本腫瘍細胞が顕微鏡下でどのように見えるかによって予測することは容易ではないが、これらの腫瘍の分子構造と臨床的挙動との潜在的関係性は包括的に調査されてはいない。

LGGについては、TCGAの研究者らが臨床転帰と関連性のある反復突然変異、および染色体コピー数の変化を発見した。研究者らは、1番染色体の短腕、19番染色体の長腕の同時欠失を特徴とする1p19q共欠損と呼ばれる特定の染色体異常に焦点を合わせた。この異常は、より良好な臨床転帰と関連性がある。また1p19q共欠損のある腫瘍はIDH1、IDH2遺伝子の突然変異が高頻度で、この組み合わせが最も良好な臨床転帰と関連性があった。IDH突然変異のない大多数の患者には、GBMに同様のゲノム異常が著しく示され、同様に転帰不良であった。これらの研究結果から、このLGGのサブタイプは、一部のGBMの前駆病変である可能性が示唆される。最近の研究は、IDH1、IDH2タンパク 質の突然変異型を阻害する薬の開発を目的としており、侵襲性の低いLGGの分子サブタイプを有する患者にベネフィットをもたらす可能性がある。これとは逆に、IDH突然変異のないLGGは、分子的、臨床的にGBMと類似しているため、このような腫瘍を有する患者では、GBM患者に用いられる治療法によってベネフィットが得られる可能性がある。LGG研究の責任著者であるアトランタ、エモリー大学病院のDaniel J. Brat 医学博士は、患者が最適な治療を受けられる様、この研究は病理診断に用いる分子データを組み入れ、関連するLGG分類の再定義に役立つであろう、と述べている。

原文

翻訳担当者 近藤あゆ美

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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