NIH資金による研究でHPV陽性頭頸部癌の分子変化領域を発見、新たな薬剤標的となる可能性—TCGAによる腫瘍ゲノム配列解析がHPVおよび喫煙の影響に関する新たな知見を提示する

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2015年1月28日

がんゲノムアトラス(TCGA)研究ネットワークの研究者は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因の頭頸部癌において、潜在的に重要な臨床的意味のあるゲノム上の変化を発見した。HPVは米国において最も一般的な性感染ウイルスであり、HPVに関連する頭頸部癌の罹患率は増加し続けている。米国疾病対策センターによると、性交渉をもつほとんどの人が、一生に一度はHPVに感染するとみられる。

研究者らはまた、喫煙に関連するがんのタイプおよび潜在的な新しい薬剤標的を発見し、他のがん種とのゲノム類似性を多数みいだした。総合すると、本研究の所見により、HPV感染と喫煙が頭頸部癌リスクや発がんにどのように関与しているかの詳細が説明され、新たな診断と治療の方針を提供する可能性がある。

この研究は頭頸部癌のゲノム変化における最新の包括的調査である。結果は2015年1月28日にNature誌の電子版で発表された。TCGAは、米国国立衛生研究所の機関である国立癌研究所(NCI)と国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)により共同でサポート、運営されている。

米国食品医薬品局(FDA)が承認したHPVワクチンは、頭頸部癌や肛門癌など、発症率が上昇している癌の原因となるHPV感染を予防するとされるワクチンである。これらのワクチンは新たな感染を予防することによって作用している。しかしながら、感染とがんの発生までの長い過程においては、HPV陰性のがんにみられる事と同様に、HPV陽性の頭頸部癌で起こる分子変化を理解し、新たな治療法の取り組みへ発展することが重要になる。

「HPV関連の頭頸部癌の急激な増加、特に口腔咽頭腫瘍の増加は著しく、ますますその研究分野に緊迫感を生み出した」と本研究報告の責任著者でノースカロライナ大学(UNC)およびChapel HillにあるUNC Linebergerがんセンターの医学部准教授、D. Neil Hayes医師・公衆衛生学修士は語る。口腔咽頭癌は、咽頭の一部で口腔のすぐ後ろにある中咽頭から発生する。「HPV陽性腫瘍と陰性腫瘍の違いが明らかになり、この新たなデータにより頭頸部癌へのアプローチの仕方を再検討することができる」。

研究者らは、未治療の患者から採取した腫瘍(頭頸部扁平上皮癌[HNSCC])279検体のゲノム解析を行った。腫瘍検体のおよそ80%は喫煙者のものであった。検体の大半は口腔癌(61%)および咽頭癌(26%)であった。

頭頸部癌がHPV感染に関連するのはおよそ25%にすぎないが、TCGAの研究者は多くのHPV関連腫瘍のある患者の遺伝子に、FGFR3遺伝子の特異的変化とPIK3CA遺伝子の変異があることを確認した。この変異は喫煙関連腫瘍の広い一連の変異にもみられる。反対に、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子は喫煙者のHPV陰性腫瘍で変化が高頻度に発現するが、HPV陽性腫瘍ではほとんどみられない異常である。このような知見は将来の治療やバイオマーカーの開発に寄与するであろうとHayes医師は指摘した。

ここで調べたほとんどの患者の頭頸部癌は、口腔、咽喉、喉頭、鼻腔、唾液腺など、喫煙や飲酒をする際に関与する器官の腫瘍からなり、そのおよそ90%は身体の表面側の細胞[注:ここでは体内にあっても、外の環境に接触している細胞]に由来する扁平上皮癌である。2014年、米国では推定55,000人が頭頸部癌を発症した。毎年およそ12,000人の米国人が頭頸部癌で死亡している。頭頸部癌は世界中でみられる一般的な癌で、毎年600,000例以上が診断を受けている。

「頭頸部癌の発症率は世界規模で増加しており、TCGAによるこの種の大規模な合同ゲノム解析が、がんの発生や進行の詳細を理解し、新たな治療法を開発する際に不可欠となる」とNIH所長のFrancis S. Collins医学博士は語った。

研究者らは頭頸部癌の70%以上において、成長因子受容体(EGFR、FGFR、IGFR、 MET、ERBB2、DDR2)、シグナル分子(PIK3CA, HRAS)、細胞周期制御因子(CCND1)に関わる遺伝子に変化があることを発見した。これらの遺伝子は細胞の成長や増殖の過程で関与しており、その(分子)治療法に関しては現在用いられているか、開発中である。

研究者らは、頭頸部癌における薬剤耐性の新たな手がかりも発見した。それは、このような癌のおよそ40%に影響を及ぼす遺伝子が、細胞の生存と薬剤耐性を決定する過程において重要な部分を形成していた。喫煙関連癌におけるFADDおよびBIRC2遺伝子の過剰コピーや変異、CASP8遺伝子の欠損(これらはすべてプログラム細胞死の過程に影響を与える)が、がん細胞の最新治療に対する耐性の根底にある可能性を示した。同様に、HPV関連癌におけるTRAF3遺伝子の欠損、成長促進蛋白質E2F1に関連する遺伝子の過剰コピーも耐性を促進させている。

所見で、頭頸部癌ゲノムと肺扁平上皮癌や子宮頸癌など、その他の癌との類似性を認めたことは、それぞれの発がん機序に共通点がある可能性を示し、将来の治療法開発につながる機会を提供している。「頭頸部癌のゲノムが子宮頸部や扁平上皮肺癌ゲノムと顕著に類似していることは驚きである。全く異なる器官だが、腫瘍における遺伝物質で同様の欠失と獲得が認められた」とHayes医師は語った。この共通する遺伝的異常は、細胞をダメージやストレスから守る過程に関与している。

「この新たな所見により、さまざまな頭頸部癌のゲノムマップの作成が促進され、同様の癌に関する新たな知見を得て、ウイルスが疾患に与える影響の解釈が進むであろう」とNHDRI所長のEric D. Green医学博士は語った。

「多くの頭頸部癌は予防可能であるが、世界規模で増加しつつあり、長期間効果的に治療することが困難であることが多い」とNCI所長のHarold Varmus医師は語る。「この種の大規模な解析は、将来の研究や治療法の新たな手がかりとなるだろう」。

TCGA研究ネットワークは多数のがんにおけるデータを生み出し、解析を発表しており、すべてはTCGAのウェブサイト(www.cancergenome.nih.gov)で閲覧可能である。TCGAのデータはTCGA Data PortalまたはCGHubで自由に閲覧できる。

本研究は下記のNIH補助金の交付を受けた。P50CA097190, P50CA16672, U54 HG003273, U54 HG003067, U54 HG003079, U24 CA143799, U24 CA143835, U24 CA143840, U24 CA143843, U24 CA143845, U24 CA143848, U24 CA143858, U24 CA143866, U24 CA143867, U24 CA143882, U24 CA143883, U24 CA144025 and RO1 CA 095419。Bobby F. Garrett for Head and Neck Cancer Research、National Institute on Deafness and other Communication Disorders (NIDCD) Intramural Projects ZIA-DC-000016、73 and 74より追加援助を受けた。

[画像訳]TCGAの研究者は頭頸部癌におけるヒトパピローマウイルスの潜在的な役割について新たな詳細を明らかにした。

原文

翻訳担当者 林さやか 

監修 高山吉永(分子生物学/北里大学医学部分子遺伝学)

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