タモキシフェンにより高リスク女性の乳癌発症率が低下(IBIS-I試験結果)

乳癌リスクの高い女性を対象とした国際共同乳癌治療試験-I(IBIS-I)で中央値が16年間である追跡調査を実施した結果、タモキシフェン投与により乳癌全体の発症率が有意に減少した。試験成績は2014年12月9日から13日に開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された。

「IBIS-I試験は、乳癌リスクの高い女性に、乳癌を予防する目的でタモキシフェンを投与した場合の長期的なリスクおよび利益を検討するようデザインされた試験です」とロンドン大学クイーン・メアリー、ウルフソン予防医学研究所所長兼ジョン・スノー疫学教室教授であるJack Cuzick博士は述べた。

「今回の試験で乳癌の発症率は低い水準のままに20年間持続して維持できることがわかりました。ただし、子宮内膜癌に起因する死亡率やエストロゲン受容体(ER)陰性癌の発症率に関しては懸念があります。しかしながら、これらの発症率に統計学的な有意性はなく、研究結果は偶発性の可能性があります」。

「閉経後の女性にとっては、アナストロゾールやエキセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬による治療が、効果の高さや副作用の低減(副作用面での優位性)といった観点から、より優れた治療選択肢になると考えられます。しかし閉経前の女性にとっては依然として、タモキシフェンによる治療が唯一の有効な選択肢なのです」とCuzick氏は続けた。

IBIS-I試験に登録した閉経前および閉経後の女性7154人の中、3579人がタモキシフェン20 mgを5年間連日投与する群に、3575人が対応するプラセボを5年間投与する群に無作為に割り付けられた。主に乳癌の家族歴のために乳癌リスクが増大しているとされる35歳から70歳までの女性が参加した。

この試験の主要評価項目は非浸潤性または浸潤性乳癌の発症率で、副次評価項目は全死亡率、他の癌種での死亡率、および乳癌に特異的な死亡率であった。

中央値で16年間の追跡期間中に、タモキシフェン投与群の女性246人およびプラセボ群の女性343人が乳癌を発症した。プラセボ群と比較したタモキシフェン群の乳癌発症の低下率は29%であった。ER陽性乳癌の発症率では35%の低下がみられたが、ER陰性乳癌においては効果が認められなかった。

試験期間中にホルモン補充療法(HRT)を受けなかった女性のほうがより大きな利益を得た。すなわち、HRTを並行して受けなかった女性におけるER陽性乳癌の発症率は45%低下し、乳癌全体でみても38%低下した。

乳癌による死亡率には群間で差はなかったが、タモキシフェン投与を受けた女性では、有意性はないものの、全死亡率の上昇が認められた。しかしながらCuzick氏によると、96カ月目の追跡調査報告で認められた率よりも低かった。子宮内膜癌および非メラノーマ皮膚癌の発症率上昇、大腸癌発症率の低下がみられた。他の癌種では、全体としての発症率は上昇したが有意差はなかった。

「乳癌の発症率を長期にわたって低く維持できたことから、重要な知見が得られました。しかし、死亡率に対する影響という点にはまだ不確実な部分が残っています」とCuzick氏は述べた。

本試験は英国癌研究およびアストラゼネカ社から資金援助を受けた。Cuzick氏は本試験に関してアストラゼネカ社を代表して発表している。

翻訳担当者 緒方登志文

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

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