乳腺腫瘍摘出術は、両側乳房切除術と「同等に有効」

英国医療サービス(NHS)      

2014年9月3日水曜日                                                                                                      

「乳癌に対する乳房温存術と比較した場合、両側乳房切除術によって生存の可能性が高まることはない」と、Guardian紙が報じた。

これは、早期片側乳癌女性を対象に米国でおこなわれた大規模コホート研究の結果を踏まえた報道である。

両側乳房切除術(両方の乳房を切除する術式)で得られる10年死亡率の改善効果は、乳房温存術(腫瘍とその境界部分の正常組織を切除する術式で、乳腺腫瘍摘出術とも呼ばれる)+放射線療法と同等であることが、その研究からわかった。

片側乳房切除術(患側乳房の切除)では、絶対差はわずか4%であったが、10年死亡率リスクが若干上昇した。

英国では、乳癌家族歴あるいは遺伝子変異BRCA1やBRCA2遺伝子の変異など)があるために発症リスクが高い女性には、両側乳房切除術を勧める場合がある。両側乳房切除術後には、乳房再建術を行って再び元の形を復元することが可能である。

両側乳房切除術の短所は、乳腺腫瘍摘出術よりも回復期間が長く、また合併症リスクが高いことである

この研究は、両側乳房切除術が、ほとんどの患者にとっては乳房温存術+放射線療法より生存率を改善するとはいえないことを示唆している。

患者ひとり一人転帰は異なり、術式選択は本人の意向や気持ちも含めた多くの要因に左右される点に注意することが大切である。

研究の由来

本研究は、スタンフォード大学医科大学院およびカリフォルニア州立癌予防研究所Cancer Prevention Institute)の研究者らがおこなったもので、スタンフォード癌研究所のJan Weimer乳腺腫瘍科若手教職員基金、乳癌研究のためのSuzane Pride Bryan基金および米国国立癌研究所(NCI)SEERプログラムより資金提供を受けた。癌罹患データの収集には、カリフォルニア州保健局、NCIのSEERプログラム、また米国疾病対策予防センター(CDC)の癌登録制度の協力を受けた。

本研究は ピアレビューが行われるJAMA誌で発表された。本文献オープンアクセスであるため、無料で閲覧やダウンロードができる

英国では、この研究結果がメディアに広く取り上げられたが、見出しで「両側乳房切除術に効用認められず」と謳ったために曲解される可能性があった。

実際には、見出し文が取り上げたのは、無治療の場合と比較して両側乳房切除術では生存率が改善しないのではなく、乳房温存手術+放射線療法との比較において有意差が認められなかった、という点である。

研究の種類

本研究は、早期片側乳癌(片側だけの乳癌)患者に対する異なる治療法の適応と転帰について理解を深めることを目的としたコホート研究であった。

乳癌治療の選択肢には、手術療法、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、そして生物学的療法が挙げられる。

本研究では、研究者らは手術の術式の違いに注目した。すなわち、片側乳房切除術(患側の乳房を切除)、両側乳房切除術(両方の乳房を切除)、および乳房温存術+放射線療法である。

コホート研究であるため、治療結果が思わしくない(転帰不良の)理由が術式の違いによるものなのかを明らかにすることはできない。これを証明するには、ランダム化比較試験が必要になる。しかし、研究者らは、両側乳房切除術は片側乳癌の治療としては緊急性のない選択的な術式であるため、両側切除を希望する患者が、試験で比較対象となるより縮小的な手術との無作為化を受け入れる可能性は低いのではないかと述べている。

研究内容

研究者らは、カリフォルニア州の癌登録から、1998年から2011年の間に早期片側乳癌(病期0~IIIまでの乳癌)の診断を受けた女性を選定した。0期の乳癌は限局性かつ非浸潤性乳癌であるが、III期では浸潤性でリンパ節まで広がっている。

これらの対象患者に対し、平均89.1月の追跡調査をおこなった。
研究者らは、術式の異なる患者の関連因子を探った。次に、全死亡数と乳癌による死亡数を調べ、術式の違いにより死亡リスクに差が生じるのか検討した。
解析には、次の交絡因子を勘案し調整を加えた

・年齢
・人種あるいは民族
・腫瘍径
・悪性度
・組織型(顕微鏡で見た癌細胞の特徴)
・リンパ節転移の有無
エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の感受性
化学療法または放射線療法歴、あるいはその両方の治療歴の有無
居住地区の社会経済的位置づけ
・配偶者の有無
・医療保険の種類
社会経済的な観点から見た報告医療施設の患者構成
NCI指定の癌診療拠点病院での治療歴
・乳癌診断の年齢

結果

1998年から2011年の間に0期~III期の片側乳癌と診断された患者189734人をカリフォルニア州の癌登録から選定した。このうち、両側乳房切除術の施行例が6.2%、乳房温存術+放射線療法が55.0%、片側乳房切除術が38.8%であった。

両側乳房切除術施行例の割合は、年率14.3%で増加し、1998年の2.0%から2011年には12.3%を占めるに至った。両側乳房切除率の増加は、40歳未満の患者で最大であり、1998年の3.6%から2011年には33%に達していた。

研究者らは、乳房温存術+放射線療法、片側乳房切除術、および両側乳房切除術の10年死亡率(10年以内に死亡した患者の割合)を比較した。

乳房温存術+放射線療法の10年死亡率は16.8%

片側乳房切除術の10年死亡率は20.1%

両側乳房切除術の10年死亡率は18.8%

研究者らによれば、乳房温存術+放射線療法と比較した両側乳房切除術の死亡率に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]1.02、95%信頼区間[CI]:0.94~1.11)。一方、片側乳房切除術では死亡率の上昇が認められた(HR:1.35、95%CI:1.32~1.39)。 

乳癌による死亡リスクの結果は同等であった。さらに、研究者らは、術式の異なる患者間で有意な相違を発見した。乳房温存術+放射線療法の患者と比較して、両側乳房切除術を選択する傾向が強い患者は、

・50歳未満
・配偶者がいない
非ヒスパニック系白人女性
・(1998年~2004年との対比で)2005年から2011年に診断を受けた
腫瘍が大きい、リンパ節転移がある、小葉癌(乳汁を分泌する腺房内に癌が発生する)、悪性度が高い、あるいはエストロゲン受容体陰性もしくはプロゲステロン受容体陰性(ホルモン療法に反応しない)
・術後補助化学療法歴(化学療法または放射線療法、あるいはその両方)がない
民間医療保険の加入者
居住地区が社会経済的地位の高い地区にある
・NCI指定の癌診療拠点病院、すなわち主に社会経済的地位の低い患者の診療をおこなっている病院で治療を受けていた

また、乳房温存術+放射線療法の患者と比較して、片側乳房切除術を選択する傾向が強い患者は、

・50~64歳を除く全年齢層
人種的あるいは民族的マイノリティ
・(1998年~2004年との対比で)1998年から2004年に診断を受けた
腫瘍が大きい、リンパ節転移がある、小葉癌悪性度が高い、あるいはエストロゲン受容体陰性もしくはプロゲステロン受容体陰性
・術後補助化学療法歴(化学療法または放射線療法、あるいはその両方)がない
公的医療保険もしくはメディケイドの加入者
居住地区が社会経済的地位の低い地区にある
主に社会経済的地位の低い患者を診療しておりNCIが癌診療拠点に指定していない病院で治療を受けていた

結果の解釈

研究者らは、「両側乳房切除術施行例は1998年から2011年までの間にカリフォルニア州全体で著しく増えたが、乳房温存術+放射線療法と比較すると、その死亡率は低くはなかった。片側乳房切除術は、他の二つの術式に比べ死亡率が高かった」と結論づけた。

「このデータは、他の治療法との併用することで、除神経やコリン作動性拮抗作用の概念を強力に裏付け、胃癌治療や他の固形悪性腫瘍治療の可能性に対して実行可能なアプローチを示すであろう」。

結論

早期片側乳癌女性を対象に米国で実施された大規模コホート研究の結果、乳房温存術(腫瘍とその境界の正常組織を切除する術式で、乳腺腫瘍摘出術とも呼ばれる)+放射線療法との比較において、両側乳房切除術(両方の乳房を切除する術式)による10年死亡率に改善は認められなかった。

片側乳房切除術では、絶対差はわずか4%ではあるが10年死亡リスクが若干上昇した。

しかし、術式の異なる患者間で有意な相違が認められたため、片側乳房切除術による死亡リスク上昇は、一部の測定因子やその他因子(糖尿病等の他疾患の有無など)、あるいは治療機会の相違を踏まえた調整が不十分であったことが理由である可能性がある。

翻訳担当者 菊池 明美

監修 原野 謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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原文掲載日 

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