乳癌化学療法中の若い女性の妊よう性温存に役立つ治療法

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2014年5月30日

癌治療中にホルモン阻害薬を注射して一時的に閉経状態にすると、若い乳癌女性の妊よう性がより温存されることが研究者らによって明らかにされた。シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)総会において、米国国立衛生研究所(NIH)の一機関である米国国立癌研究所(NCI)が資金提供するPrevention of Early Menopause Study (POEMS)の結果が本日発表された (ASCO late breaking abstract #505)。ホルモン阻害薬を投与した女性は、投与しなかった女性と比較し、長期毒性を有する化学療法による卵巣不全を経験する可能性がわずか3分の1であり、癌治療後に正常妊娠する可能性は2倍以上であった。

POEMSでは、ホルモン受容体陰性乳癌を有する18~49歳の閉経前女性を標準的化学療法とともにゴセレリンを4週ごとに投与する群と、標準的化学療法のみ行う群に無作為に割付けた。ゴセレリンは体のホルモン・フィードバック機構を阻害してエストロゲン産生を抑制し、女性を化学的閉経状態にする。通常の用法では化学的閉経は可逆的である。POEMSは、この治療法が癌治療そのものに干渉することなく、癌治療後に女性が妊よう性を回復できるかを検証するために実施された。

研究者らは試験登録2年後の卵巣不全率を比較し、標準治療群の22%(15/69例)が卵巣不全を発症したのに対し、ゴセレリンを追加した群では8%(5/66例)であったことを明らかにした。本試験に登録した218例中、妊娠したのは標準治療群12例(11%)、ゴセレリン治療群22例(21%)であった。

「本試験は、ゴセレリンを用いると妊よう性改善の可能性があり、妊娠率が高まることを初めて明らかにしました」とCleveland Clinical Foundation に所属し、POEMS試験を主導したHalle Moore医師は述べた。「早期乳癌で化学療法を開始する閉経前女性は、早発卵巣不全を予防するため、この新しい治療選択肢を考慮するとよいでしょう」。

本試験は、NCIの5つの癌臨床試験ネットワーク(National Cancer Trial Network Group)の一つであるSWOGが、ECOG-ACRIN癌研究グループと、the Alliance for Clinical Trials in Oncologyと共同で行ったものであり、国際アクセスはAustralia New Zealand Breast Cancer Groupが属するInternational Breast Cancer Study Groupから得た。

若年癌女性の妊よう性温存のための標準的アプローチは、癌治療前に卵巣組織、卵胞、または胚の採取および保存を行うことである。「癌治療の結果を損なうことなく若年乳癌女性の妊よう性を保護する簡便な方法を見つけることが重要です」とNCIの癌予防部門の副部長 でありPOEMSの研究者の1人であるLori Minasian医師は語る。

妊よう性温存のための治療は、癌治療の転帰に影響を与えるものではなく、本データ解析は、この治療による有害作用がないことを裏づける結果となった。

毎年アメリカだけでも50歳未満の女性約49,000人が浸潤性乳癌と診断され、そのうち約11,000人が40歳未満である。この集団の約15%が、ホルモンにより増殖しない、つまりホルモン療法に反応しないホルモン受容体陰性乳癌を有する。

参考文献:Moore HCF, et al. Prevention of Early Menopause Study (POEMS)/S0230, a Phase III Trial of LHRH Agonist Administration During Chemotherapy to Reduce Ovarian Failure in Early Stage, Hormone Receptor-Negative Breast Cancer: An International Intergroup Trial of SWOG, IBCSG, ECOG, and CALGB (Alliance). ASCO abstract LBA505. ClinicalTrials.gov URL: http://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00068601.

原文

翻訳担当者 大倉綾子

監修 原文堅(乳癌/四国がんセンター)

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...