2014年米国癌学会(AACR)年次総会でNCIの研究に脚光

米国国立がん研究所(NCI)パースペクティブ

原文掲載日 :2014年4月7日

サンディエゴで開催された今年の米国癌学会(AACR)年次総会で、米国国立癌研究所(NCI)の研究者であるSteven Rosenberg医師およびLouis Staudt医学博士による特別講演が行われた。NCIが実施する研究は主にメリーランド州ベセスダにあるNCIメインキャンパスで行われ、NCI助成による全研究活動の約15%を占める。

2名のNCI研究者により、悪性度の高い癌に対する多様かつ相乗的な治療法開発への課題が浮き彫りになった。各研究者は、数十年間、黒色腫あるいはリンパ腫といった特に治療が困難な癌に対し最も注目しており、講演では、各研究者が癌の進行についてさらに理解を深め、調査中の癌に対し効果的な標的薬を発見するためには努力と粘り強さが必要と強調した。NCIの研究費の残り85%では施設外研究者に対し同様の研究支援も行っているため、両研究者が独立してこれらの研究を行っている訳ではないことは言うまでもない。

CI外科部門長であるRosenberg医師は、講演の中で養子T細胞療法(ACT)による治療の可能性に焦点を当てた。この研究的な治療法は、患者自身のTリンパ球(感染症と闘う際に中心的な役割を担う細胞)または遺伝子組換えのTリンパ球を使い、免疫系の抗癌能力を増強することを試みるものである。この治療法の形式の1つでは、研究者はまず癌に浸潤したT細胞(腫瘍浸潤リンパ球;TIL)を患者から採取する。すぐれた抗腫瘍活性をもつTILが同定され、その細胞が研究室で大量に培養される。患者は、自身の免疫細胞を破壊するための治療を受けた後、研究室で培養されたTILを患者に注入し、戻されたTILが癌細胞を攻撃し破壊する。

TILを用いた養子T細胞療法は、転移性患者の黒色腫(メラノーマ)治療で特に効果が高い。この治療法は、Rosenberg医師により1988年に初めて開発された。2002年、TIL移植前に患者の免疫系を枯渇させる必要性を示したNCIの施設内臨床試験の結果により、この治療法の有効性が向上した。

Rosenberg医師は、特別講演の中で新たに入手可能となった転移性黒色腫患者93人の長期追跡データ(中央値9年)を報告した。患者の半数以上(52人)で癌が退縮し、そのうち20人では完全に消退した(AACR2014年次会が開催された時点で完全寛解にとどまる1例を除く)。

さらに、Rosenberg医師は転移性黒色腫患者101人を対象として最近実施された確認試験についても報告し、その試験ではACTに基づいた治療を行った患者55人に癌の退縮が認められた。この54%という奏効率は、別の2種類の免疫療法(イピリムマブ療法および抗PDI療法、奏効率は各10%、35%)が行われた転移性黒色腫患者での奏効率を上回るものだった。さらに、ACTはその2つの治療法に奏効しなかった患者に対しても有効であった。

Rosenberg医師の研究室およびクリニックで実施される研究の多くでは黒色腫に最も焦点を当てているが、同医師は他の悪性腫瘍に対するTILあるいは他の細胞に基づいた治療法の拡大にも取り組んでいる。こうした悪性腫瘍には、B細胞リンパ球腫(最もよくみられる非ホジキンリンパ腫)、白血病、その他のリンパ腫などがある。

遺伝子組換えT細胞を用いた進行リンパ腫治療での成功を報告したのは、Rosenberg医師の研究グループが初である。同医師は特別講演で、他の治療法が奏効しなかった緩慢性(悪性度の低い)または侵襲性(悪性度の高い)B細胞リンパ腫の成人患者18人の最新結果について説明した。16人の患者で癌の退縮がみられ、8人の患者で完全消失した。他の治療法では奏効しなかった患者がACTで良好に反応したという知見は、全体的な課題である代替的アプローチや相乗的治療法の必要性を強調するものである。

NCIリンパ系悪性腫瘍分子生物学部門長である Louis Staudt医学博士による特別講演では、B細胞関連の癌とその治療における課題が中心となった。同医学博士の講演は、近年診断されたリンパ腫の30~40%を占めるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対する合理的なターゲット療法についてであった。Staudt医学博士らは、2000年に当時としては比較的進んでいたマクロアレイ技術を用い、実際にはこのタイプのリンパ腫は2つの異なる疾患であったことを突き止めた。過去14年間に博士の研究グループはDLBCLについての分子的理解を深め、現在ではDLBCLには少なくとも3つの分子タイプがあるということがわかっており、それぞれが発生における独特な段階でB細胞から派生する。活性化型B細胞(ABC)型のDLBCLは、DLBCL症例の約40%を占め現行の治療法での予後が最も悪く、現在の研究活動の最も中心となっている。

B細胞シグナル伝達がこの疾患の進行の重要部分とみられるため、近年、Staudt医学博士の研究グループは、治療戦略としてB細胞受容体シグナル伝達を標的とする方法を探している。この研究で、活性化B細胞(ABC)リンパ腫細胞が存続するために必要とするB細胞受容体シグナル伝達経路内の重要成分としてブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という酵素が同定された。研究者は、この分子的研究に基づき、臨床研究で用いる薬剤としてBTKの強力な阻害剤であるイブルチニブを選択した。

Staudt医学博士とNCIの同僚であるWyndham Wilson医師が主導した研究で、NCIで行われた予備試験に参加したABC型DLBCL患者を対象とし、初めてイブルチニブが評価された。その結果から、イブルチニブ錠剤単独投与により、副作用は最小限にとどめつつ主要な抗リンパ腫効果が得られたことが示された。2012年に米国癌学会にて最初に報告されたイブルチニブの多施設共同第2相試験では、ABC型に対しては高確率で奏効したが別の型のDLBCLでは奏効しないことが示されており、仮定されるように、この癌を治療するためには相乗的に作用しうる別の治療法を見つける必要があることが浮き彫りになった。

Staudt医学博士は、特別講演でイブルチニブが高確率で奏効すると考えられるABC型DLBCLの分子メカニズムについて掘り下げた。一部の患者の腫瘍細胞で、B細胞受容体の構成成分をコードするCD79Bにおいて変異が認められた。この遺伝子が変異すると、ABC型DLBCL腫瘍はイブルチニブに対してさらに感受性が高くなる。しかし、イブルチニブはB細胞受容体に影響する変異が認められない多種の腫瘍に対し有効だったため、これらの患者では、B細胞受容体は、非遺伝子的と思われる別のメカニズムにより誘発されたのではないかとStaudt医学博士は提唱している。

イブルチニブの投与を受けた一部の患者では1年以上完全完解が継続する一方、同剤が奏効した患者の大半で最終的には再発がみられたため、Staudt医学博士はイブルチニブの有効性を向上させるためには併用療法が必要だと指摘した。Staudt医学博士は、イブルチニブ投与を受けた患者の大半において副作用は非常に稀であったため、同剤は併用療法のよい基盤になりうると強調した。併用療法の背景にある重要な点は、癌細胞が異常に存続し続けるためには典型的に複数のメカニズムを持ち、治療を成功させるにはそれらの存続経路の大半あるいは全てを遮断しなければならないということである(下方に図示)。さらに、癌細胞が代償的な生存経路を活性化した「エンドラン」を構築することにより一つの薬物療法に奏効する可能性がある。治療を成功させるためには、併用療法ではこういった代償的機序の発現を予測する必要がある。

結果的に、Staudt医学博士の研究チームは、ABC型DLBCL細胞を殺すためイブルチニブと相乗的に作用しうる他の薬剤あるいは物質を探している。同研究チームにより、IRAK4阻害剤およびBET阻害剤として知られる物質や、レナリドミドという薬剤が全て有効な補助剤となる可能性があることがわかった。最終的に、この方法論は、数十または数百通りもの組み合わせが考えられる併用療法での臨床試験展開が困難であることを示している。臨床試験へ進展するためには、最も有望な組合せあるいは併用療法を広範囲な前臨床研究により同定することが必要である。

Rosenberg医師とStaudt博士の両研究チームは、過去数十年にわたり研究してきた本疾患をさらに解明し続けている。これら2つの注目された特別講演に加え、NCI研究者および職員は、5日間にわたるAACR年次会中さまざまな議論において多様な洞察および展望を提示した。
特定の講演についての情報検索は下記を参照のこと。
http://www.cancer.gov/researchandfunding/ meetings/2014aacr

〔画像訳:相乗的に作用する薬剤の組合せを同定するための
高処理マトリックススクリーニング〕

原文

翻訳担当者 佐々木亜衣子 

監修 大野智(腫瘍免疫学、免疫療法、補完代替医療/帝京大学・東京女子医科大学)

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