放射線治療に化学療法(PCV療法)を追加することで低悪性度の成人脳腫瘍患者の生存期間が延長

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2014年2月3日

低悪性度神経膠腫を有し、放射線治療の完了後に化学療法レジメン(プロカルバジン(P)、ロムスチンとして知られるCCNU(C)、ビンクリスチン(V))を受けた成人患者は、放射線治療のみを受けた患者よりも長く生存することが、米国国立衛生研究所(NIH)が支援するランダム化臨床試験の長期追跡調査で示された。

レジメンにある3種類の化学療法薬はすべてが上市されており入手可能であるため(※監修 者注:CCNUは日本では販売されていない)、この臨床試験で使用された治療法はすでに利用可能である。しかしながらこの化学療法は、白血球の減少に伴う感染症リスクの上昇といった一定の毒性と関連している。このため研究者らは、副作用の管理に通じている医師に限ってこの治療法を使用するべきであると勧告している。

低悪性度神経膠腫は進行が比較的緩徐であり、成人に多くみられる他の脳腫瘍(膠芽腫に分類されるタイプ)より転帰が良好である。

腫瘍放射線治療グループ(RTOG)は、NIHの機関である米国国立癌研究所(NCI)により資金提供された臨床試験組織である。NCIは試験結果を本日公表している。長期追跡調査の解析により、試験で化学療法を受けた人において生存期間の有意な延長が示されたからである。この解析の詳細については2014年の学術会議や査読誌で発表される予定である。

本試験 RTOG 9802では、1998年10月から2002年6月の間に低悪性度神経膠腫患者251人を登録し、放射線治療後の化学療法の役割に取り組んだ。登録された患者は、低悪性度神経膠腫患者の中では比較的高リスクな状態で、年齢が40歳以上か、39歳以下の場合は腫瘍の摘除が部分的な患者であった。

すべての患者が術後放射線療法を開始した。ランダム化割り付けにより患者の半数が放射線療法ののちに治療を中止し、残りの半数は放射線療法終了後に6サイクルの化学療法を受けた。化学療法ではプロカルバジン(P)、CCNU(C)、ビンクリスチン(V)の3種の薬剤が使用された。このPCV化学療法は、21日間の投薬を8週間ごとに6回行うものである。

放射線療法後にPCV療法を受けた試験参加者では全生存期間において著しい延長が見られた(生存期間中央値:13.3年)。対して放射線単独療法の患者では生存期間中央値は7.8年で、両群間の差は5.5年であった。最初の試験参加者登録からの追跡調査の中央値はほぼ12年であった。

腫瘍の分子および遺伝子特性に基づいた患者の状態の分析が進行中である。これらの試験は重要なものになる。なぜなら脳腫瘍の分子特性により、化学療法からベネフィットを得られる可能性の高い患者の特定が可能になってきているからである。

「本試験の結果は診療を変えるものです」と、ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニック腫瘍学教授で、共同試験責任医師であるJan Buckner氏は述べた。「加えて、進行中である患者の腫瘍サンプルの解析により、化学療法からベネフィットを得られる患者を特定できるようになり、個別医療に向けてさらに一歩近づくことになります」。

共同試験責任医師でノースカロライナ州Winston-Salemにある Wake Forest School of Medicineの放射線腫瘍医であるEdward Shaw医師は次のように述べた。「放射線療法を受ける適正な候補者であると判断された患者さんには、受ける可能性のあるベネフィットとリスクを理解してもらった上で化学療法も受けるように勧めるべきです」。

RTOG 9802はNCIから資金提供を受け、RTOGと、NCIの他の3つの癌共同研究グループ(SWOG, ECOG-ACRIN, and the Alliance for Clinical Trials in Oncology)によって計画、実行された。 RTOGは新しいネットワークグループNRG Oncologyの構成組織として2014年3月から機能する。

「この試験はNCIが支援する共同研究グループのプログラムを通じて参加した全米の大規模な研究者のネットワーク無くしては不可能でした。このプログラムによって低悪性度神経膠腫といった比較的発生頻度の少ない癌の患者を登録することが可能となったのです」と、NCI癌治療・診断部門の臨床局長であるJeff Abrams医師は述べた。「これらの知見は、今ある治療法をいかに組み合わせるかによって臨床成績を有意に改善できる可能性を示す例でもあります」。

米国では2014年中に23,000人以上もの人が原発性脳腫瘍であるとの診断を受けると推定されている。そのうち低悪性度神経膠腫が10~15%を占めると考えられる。

(図)脳内の神経膠腫
(動画)RTOG9802試験の結果に基づきベネフィットを得られるかもしれない患者について語るJan Buckner医師(メイヨークリニック)

参考文献:RTOG 9802: A Phase II Study of Observation in Favorable Low-Grade Glioma and A Phase III Study of Radiation with or without PCV Chemotherapy in Unfavorable Low-Grade Glioma. A description of the clinical trial can be found at http://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00003375.

原文

翻訳担当者 岡田章代

監修 西川 亮(脳・脊髄腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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