成人癌患者における発熱・好中球減少症の管理に関する新ガイドライン

ASCOが成人癌患者における発熱・好中球減少症の管理に関する新ガイドラインを発表、また国際小児好中球減少症ガイドライン(International Pediatric Neutropenia Guideline)を承認

 上記のガイドラインは好中球減少症に関連した合併症のリスクが非常に高い患者を特定し、過剰治療を減らすのに役立つ

バージニア州アレクサンドリア—2013年1月14日、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は癌患者における発熱性好中球減少症の管理および本症に関連した感染の予防に関する診療ガイドラインを発表した。好中球減少症は癌患者に多い疾病である。白血球の一種である好中球の数が減少することで発症する。また、同学会は国際小児発熱・好中球減少症ガイドライン委員会(International Pediatric Fever and Neutropenia Guideline Panel)によって作成された、小児癌患者を対象とした関連ガイドラインを承認した。これらのガイドラインは発熱性好中球減少症に関連した合併症の発症リスクが高い患者や感染を予防するための治療が必要な時期を特定するのに役立ち、発熱性好中球減少症を発症した患者に対して在宅管理が可能であるかどうかを判断する際の指標となる。

 好中球減少症には、癌そのものが原因である場合と癌細胞や造血細胞を死滅させるタイプの抗癌剤が原因である場合とがある。好中球減少症患者では、血球数が正常な患者と比べて感染症が起こる確率が約50倍高い。好中球減少症患者に感染の徴候である発熱が認められる場合は発熱性好中球減少症と診断され、通常直ちに入院し、敗血症などの生命に関わる合併症を予防するために抗菌剤の静脈内投与を受ける。一方で、発熱性好中球減少症に関連した合併症の発症リスクが低い患者には、通院治療が適しているかもしれない。

 「このガイドラインは科学的に実証された根拠に基づいて、入院が不要な発熱性好中球減少症患者を特定する際の指標となるよう作成されました」と、本ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長でありEmory School of Medicineの小児科・血液科・腫瘍内科学教室准教授でもあるChristopher R. Flowers医師・理学博士は語る。「このガイドラインは入院時の不快感や薬剤耐性菌に曝される危険性から特定の患者を救うことができ、医療資源の多大な節約にもつながる可能性があります」。

 ASCOの新ガイドラインには、Multinational Association for Supportive Care in Cancer(MASCC)スコアやTalcott’s Rulesなどの信頼性の高い評価法を用いて発熱性好中球減少症に関連した合併症のリスクを評価する方法が示されている。

 「好中球数の減少(100/mL未満が8日以上続く)が認められる患者も、発熱がなければ抗菌剤や抗真菌剤を経口投与して感染を予防することで在宅管理が可能となります。在宅管理が可能になれば、患者はより良好な臨床経過をたどる可能性があります」と本ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長でありワシントン大学医学部教授でもあるScott Ramsey医学博士は話した。

 ASCO専門家委員会はこの診療ガイドラインを作成するために関連文献の正式な検証を系統的に行った。この検証では、43試験に関する47文献を対象とした。

成人患者のためのガイドラインでは、以下に重点をおいている。

 ・発熱を認めない好中球減少症患者における感染予防:抗菌剤および抗真菌剤の予防的投与は、合併症リスクを増大させる他の因子が存在する場合を除き、好中球減少が8日以上持続する重症患者にのみ実施することが望ましい。過剰な予防治療は薬剤耐性菌を生み出す原因となる。予防的投与に用いる抗菌剤は経口フルオロキノロン、抗真菌剤はトリアゾ−ル系経口薬剤が望ましい。

・発熱性好中球減少症に対する初期治療の迅速な開始:発熱を認める好中球減少症患者は直ちに総合病院、外来診療所または個人医院を受診し、初回抗菌剤投与を受けなければならない。

・MASSCスコアまたは Talcott’s Rulesを用いた発熱性好中球減少症患者における合併症リスクの評価:MASSCスコアが21を超える、または、Talcott’s Group 4に分類された患者は合併症リスクが非常に低い。一方、文献の検証では、この2種類の評価法で発熱性好中球減少症に関連した合併症のリスクが低いと判定された患者のうち最大11%に合併症が認められた。

・発熱性好中球減少症の在宅管理:合併症のリスクが低く、ガイドラインに記載されているその他のリスク因子を保有していないと判断された患者は、総合病院、外来診療所または個人医院において初回治療を受けた後は、抗菌剤や抗真菌剤の経口投与による在宅管理が可能である。発熱性好中球減少症の外来管理は、頻回受診に同意され、病院から1時間以内または30マイル以内の地域に居住し、自宅に介護者が24時間同居している、常時電話連絡が可能で病院までの交通手段を有する患者に限る。臨床症状の増悪、臓器不全またはなんらかの併発症が認められる患者は入院下で管理すべきである。

・発熱性好中球減少症の在宅管理における投薬:好中球減少症患者が発熱した場合は細菌感染の可能性があるため、初回治療は抗菌剤の経口投与、通常はフルオロキノロンとアモキシシリン・クラブラン酸合剤の併用投与を行う。この治療は、発熱が認められる場合に重篤な感染症を予防するために行うが、この段階では病原菌は特定されていない。合併症のリスクが高い患者には入院下で抗菌剤を静脈内投与することが望ましい。

さらに本ガイドラインは、ASCOが発表した一般的な検査や治療のうち臨床的な効果が実証されていないものを削減することで癌患者へのケアの質と有用性を向上させる「上位5項目リスト」の内容と一致している。ASCOはChoosing Wisely(R)キャンペーンへの参加を通じ9つの協賛専門医学会および米国内科専門医認定機構(ABIM)財団の尽力を得て、科学的に実証された本当に必要なケアを患者が選択する際の指標とするために、このリストを作成した。2006年にASCOが発表した白血球増殖因子(またはコロニー刺激因子)に関するガイドラインでは、発熱性好中球減少症のリスクが非常に低い(20%未満)患者に対して同剤を使用しないよう勧告している。化学療法の種類によっては白血球を破壊して好中球減少症を引き起こすことがあるが、白血球増殖因子は体内の白血球産生を促進する。今回の新ガイドラインは2006年の勧告を支持することによって、ASCOの「上位5項目リスト」の内容を踏襲する形となっている。

ASCOが国際小児好中球減少症ガイドライン(International Pediatric Neutropenia Guideline)を承認

 2013年1月14日にASCOが承認した小児ガイドラインは、小児癌および感染症の専門家ならびに患者支援者で構成される国際小児発熱・好中球減少症ガイドライン委員会(International Pediatric Fever and Neutropenia Guideline Panel)によって作成された。本ガイドラインは、小児癌患者または造血幹細胞移植を受ける小児における発熱性好中球減少症の診断、継続管理ならびに抗菌剤および抗真菌剤の初回投与に関する提言を行っている。さらに作成者らは、小児臨床試験によって実証された知見以外に成人において実証された結果も小児に適用している。発熱性好中球減少症は化学療法を受けた小児癌患者に多い合併症である。本ガイドラインは2012年9月17日にJournal of Clinical Oncologyの電子版に発表された。今回ASCOが本ガイドラインを承認したことで、ASCO会員は成人癌患者のみならず小児癌患者における発熱性好中球減少症の管理指標も得ることとなった。

「小児癌患者における発熱性好中球減少症の管理について具体的に述べられた、科学的な事実に基づく包括的なガイドラインが初めて作成されました」とFlowers氏は語った。

ASCOは本ガイドラインの承認にあたり、提言内容の明確性や臨床的な有用性、また、公開されているデータの解釈が検証者のものと一致しているかどうかを評価した。本ガイドラインの承認によって、会員や腫瘍学関係者が利用可能なASCOの審査を経た高品質のガイドラインがさらに増えることとなった。

臨床試験結果はASCOのガイドライン作成および承認に非常に重要な役割を果たしている。ASCOは医学的な決定事項を発表して癌患者へのケアを向上させるには癌臨床試験が不可欠であり、あらゆる患者が試験に参加する機会を与えられるべきであると考えている。

新ガイドラインの詳細および関連資料や文献はhttp://www.asco.org/guidelines/outpatientfnにて閲覧できる。

翻訳担当者 佐々木真理

監修 勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院)

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