ペルツズマブのFDA承認

商品名:Perjeta™

HER2陽性乳癌の術前補助療法用に、トラスツズマブおよびドセタキセルとの併用で承認(2013/09/30)
HER2陽性転移性乳癌の治療用に、トラスツズマブおよびドセタキセルとの併用で承認(2012/06/08)

胚・胎児毒性に関する枠囲み警告、臨床試験情報、安全性、用量・用法、特定の集団 (条件下)での使用などの全処方情報がFull prescribing information(英文)で参照できます。

HER2陽性乳癌の術前補助療法
2013年9月30日、米国食品医薬品局 (FDA)は、根治的初期乳癌治療法の一部となる術前補助療法のために、トラスツズマブおよびドセタキセルの併用薬としてペルツズマブ注射剤(販売名:Perjeta[パージェタ]、Genentech社)を迅速承認しました。この併用治療の対象となるのは、HER2陽性、局所進行性、炎症性または早期乳癌(腫瘍径が2cmを超えるかリンパ節転移陽性)患者です。

乳癌の術前補助療法に対するペルツズマブの承認は、HER2陽性、手術可能な、局所進行性または炎症性乳癌(T2-4d)患者を対象にした、ランダム化・多施設共同・非盲検化臨床試験結果に基づいています。この試験ではHER2の過剰発現(免疫組織化学法[IHC]で3+、または蛍光in situハイブリダイゼーション法[FISH]で増幅比が2.0以上、中央研究所で定義)を確認するため乳癌の試料が採取されています。本試験には417人の患者が組み入れられ、術前の補助療法の4群、すなわちトラスツズマブ+ドセタキセル、ペルツズマブ+トラスツズマブおよびドセタキセル、ペルツズマブ+トラスツズマブ、またはペルツズマブ+ドセタキセルを投与する群のいずれかにランダムに割り付けられました。

ペルツズマブ、トラスツズマブおよびドセタキセルは術前に3週毎の静注(IV)で計4サイクルが投与されました。術後は患者全員がフルオロウラシル、エピルビシン、シクロホスファミド(FEC)を3週毎の静注で3サイクルを投与され、トラスツズマブは1年間の治療期間が終了するまで3週毎に静注投与されました。本試験の主要エンドポイントである病理学的完全奏効(pCR)は、乳房に癌浸潤がないこと(ypT0/is)と定義されていましたが、FDAはこの定義を乳房およびリンパ節に癌浸潤がない(ypT0/is、ypN0)こととすることを推奨しています。

本試験の患者背景のバランスは良好でした。7%が炎症性乳癌、32%が局所進行性乳癌、70%がリンパ節転移乳癌のある患者で、患者の47%にホルモン受容体陽性病態がありました。

pCR(ypT0/is、ypN0)率は、ペルツズマブ+トラスツズマブおよびドセタキセルを投与された患者で39.3%、トラスツズマブ+ドセタキセルを投与された患者で21.5%でした。この17.8%の差は統計学的に有意なものでした(補正後のP値= 0.0063 コクラン・マンテル・ヘンシェル検定 )。ペルツズマブを併用した場合のpCR率および改善の程度は、ホルモン受容体陽性腫瘍患者のサブグループの方で、ホルモン受容体陰性腫瘍患者よりも低下していました。

トラスツズマブおよびドセタキセルにペルツズマブを併用した場合に最も高頻度に見られた(30%を超える頻度で)副作用は脱毛症、下痢、嘔気、好中球減少症でした。米国国立癌研究所・有害事象共通用語基準(NCI-CTCAE)第3版のグレード3~4に該当する副作用で、最も多く見られたのは(2%を超える頻度で)、好中球減少症、発熱性好中球減少症、白血球減少症、および下痢でした。ペルツズマブ投与で報告された顕著な他の副作用として、左心室機能不全、注入に伴う反応、過敏症反応、アナフィラキシーが見られました。

術前療法にFECまたはカルボプラチンを組み込んだ場合の、循環器系の安全性を主に評価するために、追加のランダム化第2相試験が、HER2陽性、局所進行性、手術可能または炎症性(T2-4d)乳癌の患者225人を対象に実施されましたが、この試験結果は本承認に裏付けを与えることになりました。

ペルツズマブは、心筋症および胚・胎児毒性に関する「枠囲み警告」付きで承認されています。心筋症に関する警告は、術前補助療法試験において左室駆出率(LVEF)を低下させる患者の割合が上昇したことに基づいています。ペルツズマブでの治療前および治療中は循環器系機能の検査を実施しなければいけません。胚・胎児毒性に関する警告は、動物試験で認められた羊水過小症、腎発生の遅延、胚・胎児死亡に基づいています。ペルツズマブによる治療を開始する前に、これらのリスクや効果的な避妊の必要性についてアドバイスを受けなければなりません。

ペルツズマブで推奨される投与量および投与スケジュールでは、初回用量を850mgとし60分間かけて静注します。その後は3週毎に420mgを30~60分かけて静注投与します。ペルツズマブは、下記の初期乳癌治療法の一部として3週毎で3サイクルから6サイクル投与する必要があります。

・Ÿトラスツズマブおよびドセタキセルとの併用でペルツズマブを術前に4サイクル投与し、術後はFECを3サイクル続ける治療

・まずFEC単独を3サイクル、その後にドセタキセルおよびトラスツズマブとの併用でペルツズマブを3サイクル、これらを術前に投与する。あるいは

・ドセタキセル、カルボプラチンおよびトラスツズマブ(TCH)との併用でペルツズマブを術前に6サイクル投与する。

術後はトラスツズマブを治療期間の1年間が終了するまで継続的に投与する必要があります。初期乳癌治療に6サイクルを超えてペルツズマブを継続的に投与することや、アントラサイクリン系薬剤とペルツズマブを併用投与することについてはエビデンスが不十分であり推奨できません。さらにドキソルビシンとペルツズマブの順次投与の裏付けとなる安全性データはありません。

2012年6月に初回承認されたペルツズマブは組み換え型のヒト化モノクローナル抗体であり、HER2の細胞外二量体形成ドメイン(サブドメインII)を標的とすることで、HER2とEGFR、HER3、HER4などのHERファミリーによるリガンド依存性のヘテロ二量体形成を阻害します。

今回の迅速承認はpCR率の改善が明らかになったことに基づいており、無イベント生存期間、全生存期間の改善を示すデータはありません。この適応に対する承認を継続するには、検証的試験で無病生存期間の改善を明らかにすることが条件となります。

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緒方登志文 訳
勝俣範之(腫瘍内科、乳癌、婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院)監修 
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HER2陽性乳癌の術前補助療法
HER2陽性転移性乳癌

2012年6月8日、米国食品医薬品局は、転移性病変のため抗HER2療法または化学療法を以前に受けていないHER2陽性転移性乳癌患者への治療に、トラスツズマブおよびドセタキセルと併用してペルツズマブの注射薬(Perjeta、Genentech社)を使用することを承認しました。ペルツズマブは、HER2の細胞外二量化ドメイン(サブドメインⅡ)を標的にし、その結果EGFR、HER3、HER4を含む他のHERファミリーとHER2のリガンド依存性のヘテロ二量化を阻止する、組み換えヒト化モノクローナル抗体です。

承認は、HER2陽性転移性乳癌患者へのランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験に基づいたものです。乳腺腫瘍の標本は、中央研究所でFDAが承認した試験を使用して免疫染色法で3+またはFISH 増幅比が2.0以上のHER2過剰発現をしていることが必要でした。以前に術後化学療法または術前化学療法を受けた患者は、試験に参加する前の無病期間が12か月以上あることが求められました。

トラスツズマブとドセタキセルを併用してペルツズマブを投与する(n=402)またはトラスツズマブとドセタキセルを併用してプラセボを投与する(n=406)かのいずれか一方に(1:1の割合で)無作為に割り当てられた試験参加の808人の患者は、840 mgの初期投与量に続き 、3週間毎に420 mgの静注を受けました。治療は、病勢進行や許容できない毒性が見られる、または同意の取り下げがあるまで継続されました。

患者は2人を除き全員(99.8%)が女性で、年齢中央値は54歳でした。48%の患者がホルモン受容体陽性で、47%が以前に術後化学療法または術前化学療法を受けていました。ホルモン受容体陽性患者の45%が以前に術後ホルモン療法を受けていました。11%の患者が以前に術後または術前にトラスツズマブを投与されていました。

プラセボ群の患者と比較して、ペルツズマブ群の患者の無増悪生存期間(PFS)の中央値は6.1か月という統計的に有意な改善が見られた[HR 0.62(95%CI:0.51、0.75)、p< 0.0001、log-rank test]。ペルツズマブ群の患者のPFSの中央値は18.5か月で、プラセボ群の患者は12.4か月でした。無増悪生存期間の分析時、全生存期間(OS)の中間分析が予定通り実施され、ペルツズマブ群のほうが、OSがより良好である傾向が見られました[HR 0.64(95%CI:0.47、0.88)、p=0.0053]。しかし、OSの中間分析のHRおよびp値は、規定された中止基準(HR ≤ 0.603、p ≤ 0.0012)に達しませんでした。

トラスツズマブとドセタキセルを併用したペルツズマブ群の最も頻度が高い(30%以上)副作用は、下痢、脱毛、好中球減少、吐き気、疲労、発疹および末梢神経障害でした。最も頻度の高い(2%以上)NCI – CTCAE(ver. 3)のグレード3 – 4の副作用は、好中球減少、発熱性好中球減少症、白血球減少症、下痢、末梢神経障害、貧血、無力症および倦怠感でした。その他にペルツズマブ群で報告された重要な副作用には、左室機能不全、注射に関連した反応、過敏性反応およびアナフィラキシーがあります。トラスツズマブとドセタキセルを併用したプラセボ群と比較して、トラスツズマブとドセタキセルを併用したペルツズマブ群は、症候性左室収縮機能不全(LVSD)の発生率増加または左室駆出率(LVEF)の低下に関連がありませんでした。

ペルツズマブは、動物試験で羊水過少症、腎発生の遅れおよび胚・胎児死亡が観察されたことに基づき、胚・胎児毒性および先天異常に関する警告付きで承認されています。患者は、ペルツズマブを始める前にこれらのリスクおよび有効な避妊の必要性について助言を受ける必要があります。

ペルツズマブの推奨投与量と用法は、60分間の静注で投与する840 mg の初期投与に続き、3週間毎に30~60分間の静注で投与する420 mgです。ペルツズマブと併用する際、トラスツマブの推奨初期投与量は、90分間の静注で8 mg/kgを投与した後、3週間毎に30~90分間の静注で投与する6 mg/kgです。ペルツズマブと併用する際のドセタキセルの推奨初期投与量は静注で75 mg/kgです。初期投与量が良好な忍容性を示す場合、3週間毎に投与する量を100 mg/m2まで増やすことも可能です。

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松長えみ 訳
野長瀬祥兼( 社会保険紀南病院)監修 
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この薬剤情報のサマリーは、FDA抗腫瘍薬製品室長のRichard Pazdur医師により作成されています。米国食品医薬品局(FDA)とは米国保健社会福祉省(HHS)の一部門で、新薬その他の製品の安全性と有効性を確保するための機関です。 (FDA:医薬品・医療機器の承認方法の理解(原文)を参照。
FDAの使命は、安全かつ有効な製品の迅速な市場流通を促し、流通後も継続的に製品の安全性を監視することによって、国民の健康を守り、推進することです。

原文掲載日 

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