2012/07/24号◆癌研究ハイライト「大腸癌の分子変化マッピング」「薬剤により血液癌治療の骨髄移植がより安全に」「腫瘍は隣接細胞の力を借りて抗癌剤に抵抗する」

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NCI Cancer Bulletin2012年7月24日号(Volume 9 / Number 15)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・大腸癌の分子変化マッピング
・薬剤により血液癌治療の骨髄移植がより安全に
・腫瘍は隣接細胞の力を借りて抗癌剤に抵抗する
・(囲み記事)その他のジャーナル記事:メタアナリシスからベバシズマブの乳癌における全生存への有益性は認められず

大腸癌の分子変化マッピング

結腸および直腸癌の分子解析により、結腸直腸癌患者に対する、より的を絞った治療につながり得る理解が得られた、と癌ゲノムアトラス(TCGA)研究ネットワークの試験責任医師らが報告した。その結果は一般に閲覧可能であり(こちらこちらNature誌今月号にその要旨が掲載された。

TCGA研究者らは以前、卵巣癌と、しばしば致死性の脳腫瘍である膠芽細胞腫の原因となる分子変化を報告した。新しい解析では、224の結腸癌あるいは直腸癌のゲノムと各患者から得た対応する正常DNAの性質を包括的に明らかにした。

遺伝子変異が極端に高率に出現した癌(高頻度変異癌)を解析から除外したのち、遺伝子コピー数、遺伝子発現プロファイルといった様々な評価において結腸癌と直腸癌のゲノム間に有意な差がないことを確認した。

しかし、結腸直腸癌の分子経路を解析したところ、多くの機序により経路が障害されている可能性が示された。ある癌では、癌に関連する複数の経路に異常が認められ、ひとつの経路を標的とするだけではこれらの癌の治療に不十分であることが示唆された。

結腸直腸癌に承認された治療のほとんどは奏効率の乏しい化学療法である、と本研究の共同研究者であるハーバード大学医学部Dr. Raju Kucherlapati 氏は記した。今回の知見は、この癌を誘発する分子変化を標的とする治療薬を開発し、試験する基礎を築くであろうとつけ加えた。

「(われわれが試験した癌の中には)遺伝子変異が多数存在し、これら変異の多くは、それを標的とする薬剤が既に開発されている」とKucherlapati 氏は続けた。新規標的薬は特定の患者に対し「より高い効果を示す可能性がある」。

彼とTCGA研究ネットワークの共同研究者らはまた、その癌の16%には変異が高頻度に存在することを発見した。この現象は細胞のDNA損傷修復能が欠如していることにより生じるのかもしれない。また高頻度変異癌はまた悪性度が高いとも思われる。

検体の4分の3に、良好な予後に関係するマイクロサテライト不安定性と呼ばれる遺伝子変異が生じていた。

また細胞増殖に関与する遺伝子IGF2が、一部の癌で変化していることが明らかになった。この遺伝子産物やその受容体を標的とする薬物が開発中であり、IGF2変異性の癌患者を対象として試験される予定である。

本研究のデータは「この致死的な癌を理解し、標的治療という方法でこの癌を治療する可能性を見つけるための過去にない情報をもたらす」と著者らは結論づけた。

本研究はNIH国立衛生研究所の以下の助成を受けた。 (U24CA143799, U24CA143835, U24CA143840, U24CA143843, U24CA143845, U24CA143848, U24CA143858, U24CA143866, U24CA143867, U24CA143882, U24CA143883, U24CA144025, U54HG003067, U54HG003079, U54HG003273).

薬物により血液癌治療の骨髄移植がより安全に

小規模臨床試験の結果から、HIV感染の治療に用いられる薬物により、血液癌患者の治療として行う骨髄移植の、致死的な合併症を予防できるかもしれないことが示唆された。その薬物マラビロクは、主に移植片対宿主病に関与する免疫系細胞の活性を変化させることにより効果を示すようである。この結果は7月12日付 New England Journal of Medicine誌に報告された。

同種幹細胞移植は、白血病やリンパ腫患者の治療としてしばしば必要となる。移植片対宿主病は移植細胞集団内の免疫細胞が患者の体、主に肝臓、皮膚、内臓といった臓器を攻撃することで生じる。

ペンシルベニア大学アブラムソンがんセンターのDr. Ran Reshef氏らは、マラビロクを33日のコースで投与することにより移植片対宿主病を制限あるいは予防するかどうかを試験するため、患者38人を対象とした臨床試験を実施した。この薬物は、特定の免疫細胞上の受容体を標的とするが、この受容体は免疫細胞の体内での移動性に影響を及ぼす。

合計35人の患者が評価可能で、その全員が骨髄非破壊的移植を受けた。この処置では、幹細胞移植前に低用量の薬物を使用して癌細胞を殺し、骨髄中の免疫細胞を抑制した。患者35人には、マラビロクに加え、移植片対宿主病を予防あるいは制限するために汎用される2種の薬剤が投与された。

移植6カ月後には、約6%の患者に重度(グレード3、4)の移植片対宿主病が発現していたが、これは骨髄非破壊的移植で通常認められる値よりも70%以上低いと著者は述べた。この治療法は、衰弱性あるいは致死性の結果をもたらす肝臓や消化管の移植片対宿主病の予防に最も効果的である。

移植後100日間では、いずれの患者においても肝臓および消化管の移植片対宿主病が認められなかったが、6カ月後では、それぞれ約3%と9%の患者に認められた。Reshef氏は「それでもまだ非常に低い」と述べた。

癌の再発率と死亡率は一般的な骨髄非破壊的移植とほぼ同等であり、これはマラビロクが免疫系を有意に抑制しないという仮説を支持する結果とReshef氏は述べた。「癌の再発は移植片対宿主病予防のいずれの試験においても主な懸念事項である」と説明した。「移植片対宿主病を減らすかもしれないが、その代償として癌の再発率が増加しうる。われわれの臨床試験ではそれがみられなかったことに自負している」。

この薬物の治療効果をより理解するにはさらなる研究が必要である、とReshef氏は強調した。アブラムソンのチームはマラビロクのより長期間コースの治療を試験するため、次の小規模臨床試験を計画中であり、大規模多施設臨床試験を実施すべくNCIが支援する血液・骨髄移植臨床試験ネットワーク(Blood and Marrow Transplant Clinical Trials Network)との議論が既に始まっている。

本研究は一部NIHの以下の支援を受けた。 (P30-CA16520, K24-CA117879, and U01-HL069286).

腫瘍は隣接細胞の力を借りて抗癌剤に抵抗する

研究者らは、周辺の腫瘍を助けて抗癌剤の作用から逃れさせていると思われる非腫瘍細胞から分泌されるタンパク質を発見した。この結果は7月4日付Nature誌電子版に掲載された。腫瘍微小環境にある癌細胞と周辺細胞の相互作用が、腫瘍の増殖と治療への反応性に影響を与えるという証拠が集積されてきているが、この結果もその一つとして追加された。

癌患者が標的薬剤に応答し完全寛解に達することはまれであり、このことから、大部分の腫瘍細胞が本質的な治療抵抗性を獲得できるようなメカニズムの存在が示唆される。遺伝子変異が腫瘍の抵抗性を経時的に獲得させることは確認されてきたが、本質的な抵抗性の原因についてはあまり知られていない。

腫瘍以外で本質的治療抵抗性の原因を確認するため、ブロード研究所のDr. Todd Golub氏らは、体の結合組織や間質から得た細胞を癌細胞と混合して実験室で増殖させた。間質細胞と癌細胞の混合物を標的抗癌薬に曝露したところ、癌細胞は評価対象とした試験薬23種のうち15種に対し抵抗性を示した。

非腫瘍細胞から分泌される500以上の因子を解析したところ、肝細胞増殖因子(HGF)というタンパク質が、BRAF遺伝子変異を伴う黒色腫をベムラフェニブによる治療に抵抗性にすることが示唆された。ベムラフェニブは、BRAF変異陽性黒色腫細胞に対し近頃承認された標的薬である。

著者らが黒色腫患者から得た34検体について試験したところ、HGFの量とベムラフェニブ投与後の腫瘍退縮率の間に相関性を認めた。また、他の癌でも、その微小環境により仲介される抵抗性の証拠が認められた。

HGFや腫瘍細胞上のHGF受容体である肝細胞増殖因子受容体(MET)を阻害するいくつかの薬物が、開発中あるいは他の適応症で承認されている、と著者らは記した。BRAF変異黒色腫、大腸癌、あるいは他の型の腫瘍に対する併用療法の臨床試験を考慮すべきであろうと彼らは補足した。

「臨床的に最大の効果を得るために、腫瘍とその微小環境の双方を標的とする必要性がますます認識されてきている」とNCIの癌生物学部門責任者Dr. Dinah Singer氏は述べた。「今回の研究はその治療戦略の取り組みとして良い例を示した」。

癌の発生、進行、転移における腫瘍微小環境の役割を理解することが、NCI主導で援助する腫瘍微小環境ネットワークの目的であるとSinger氏はつけ加えた。

本研究は一部NIHより以下の助成を受けた。(P50-CA093683 and U54-CA112962).

その他のジャーナル記事:
メタアナリシスからベバシズマブの乳癌における全生存への有益性は認められず 化学療法にベバシズマブ(アバスチン)を併用することで転移性乳癌女性の無増悪生存期間は延長するが、本薬剤は全生存あるいは生活の質(QOL)の改善に有意な効果を示さないことがメタアナリシスにより示された。この結果は7月11日付Cochrane Database of Systematic Reviewsに掲載された。4,000人以上の転移性乳癌女性を含む7つのランダム化臨床試験のデータが解析された。これらの試験では、ベバシズマブを投与された女性は治療に関連する死亡率が低かったにもかかわらず、死亡に至りうる重篤な有害事象のリスクが高かった。「全生存とQOLの改善効果が乏しいため、無増悪生存期間が延長するとはいえベバシズマブが本当に患者の利益となるのか議論の残るところである」と研究者は結論付けた。
詳細:「乳癌に対するベバシズマブの承認取り消しを諮問委員会が勧告

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武内優子 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修 
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原文掲載日 

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