乳癌化学療法の認知機能への長期的影響に関する初の研究: CMF療法が僅かな認知機能障害に繋がる可能性

速報
ニュースダイジェスト:

・ 1976年から1995年の間、当時一般的であったCMF療法を受けていた女性では、癌の既往のない女性との比較において、言語学習、記憶、情報処理速度を測る認知機能検査で僅かに低い値を示していることが、2012年2月27日発行のJournal of Clinical Oncology誌で発表された。

・ 現在、CMF療法は乳癌の標準治療ではないが、20年以上前にこの治療を受けた乳癌サバイバーが今も生活の中で認知機能障害を経験している可能性がある。

・ 米国臨床腫瘍学会 専門医のSylvia Adams医師に帰属する引用文。

・ 詳細については、ASCOの患者サイトCancer.Netを参照のこと。

オランダの研究班は、1976年から1995年の間にCMF療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシル)を受けた乳癌女性では、癌の既往のない女性に比べて、認知機能が低下していることを報告した。両群の差異は僅かではあるが、主に言語学習、記憶、情報処理速度において統計的に有意であった。化学療法後に認知機能障害が起こることは知られているが、治療後20年という長期にわたり起こりうることを示したのは初めて。研究結果はJournal of Clinical Oncology誌2月27日号に掲載されている。

上席著者の一人であるSanne B. Schagen博士(オランダ癌研究所 心理社会学・疫学研究部門グループリーダー/Antoni van Leeuwenhoek病院、アムステルダム市)は、「私が知る限り、化学療法なかでも初期の治療レジメンが長期的に認知機能に影響を及ぼすことを明らかにしたのは本研究が初めてである」とし、また「我々の研究結果は、これまでにCMF療法を受けた乳癌サバイバーの認知機能をより詳細にモニターするべきと提案するものではないが、乳癌治療の認知機能への長期的な影響を知らせることで、乳癌サバイバーが認知機能障害を経験したときに、適切なサポートが受けられるように導くことができるかもしれない」と語った。

これまでの研究では、化学療法は短期的に(5~10年の期間で)健忘、情報処理能力の低下などの認知機能に影響を及ぼすことが報告されている。動物実験では、フルオロウラシル、メトトレキサート、シクロホスファミドは、学習・記憶障害、脳の構造の変化と関連付けられている。但し、近年まではこれらの化学療法の長期にわたる認知機能への影響は明らかにされていなかった。

CMF療法は1970年代から90年代にかけて乳癌の世界的な標準治療であり、何千もの患者がこの治療を受けた。現在では、アントラサイクリン系の術後補助療法が標準治療となっているが、CMF療法を受けた多くの乳癌サバイバーは現在も生存しており、更にはシクロホスファミドとフルオロウラシルは今も乳癌の化学療法に広く取り入れられている。

本研究では、Dr. Schagen氏、Breteler氏、Koppelmans氏を始めとする研究班が、乳癌既往歴があり1976年から1995年の間にCMF療法を術後6サイクル経験した196人の女性を対象に神経心理学的検査を実施した。調査期間は2009年11月から2010年6月。神経心理学的検査に加え、鬱病や自覚的記憶障害についても評価した。対照群は高齢者の疾患リスク因子を調査しているRotterdam研究に登録し、同じ神経心理学的検査を行った癌既往歴の無い50歳から80歳の女性1,509人。

年齢、教育、鬱症状などの潜在的交絡因子を調整し、研究者らはCMF療法を受けた女性は対照群との比較において、即時及び長期での言語記憶(言葉を思い出す能力)と情報処理速度、精神運動速度(思考と手の動きの協調、例えば、板にペグを差し込むなど)の検査においていずれも低い値を示した。これは年齢にして6年に相当する認知機能の低下であった。CMF療法を受けた女性では対照群と比べて記憶に関する不満が多かった。但し、これらの不満は客観的な記憶機能とは関係していなかった。

Schagen氏は、認知障害を持つ人々は、日々発生する作業を手順通りに行ったり、出張や会議のようなイベントにむけて効果的に準備をするなど、対処方法を身につけることで日常の生活機能を改善することができる、と述べた。

研究者らは化学療法の脳への影響を引き続き調査し、どのようなタイプの患者が認知機能障害を起こしやすいかを見極めようとしている。

「化学療法の影響の受け方に個人差がある理由ついては解明されておらず、我々は生物学・心理学的なリスク予測因子に関するさらなる知見を求めている」とSchagen氏は語る。

また、Schagen氏と共同研究者のBreteler氏は、癌自体の認知機能への影響を明らかにするため、乳癌サバイバーで化学療法を受けた人と受けなかった人を比較研究したいと述べた。

ASCOの見解:

Sylvia Adams医師、ASCO Cancer Communications委員会メンバー、乳癌専門医 「乳癌サバイバーの増加と高齢化に伴い、患者自身そして医療従事者は過去の化学療法の長期的影響についても注意を払う必要がある。現時点では失われた認知機能を回復する治療はないが、サバイバーが日々の活動をより容易に行っていくためのスキルについて学ぶことはできる。」

研究の原著PDFはこちら

http://jco.ascopubs.org/content/early/2012/02/27/JCO.2011.37.0189.full.pdf+html

Cancer.Net(http://www.cancer.net/)からの参考リンク: JCOキャンサーアドバンス:

http://www.cancer.net/patient/Publications+and+Resources/Cancer+Advances/News+for+Patients+from+the+Journal+of+Clinical+Oncology/Cancer+Advances%3A+New+Study+Shows+That+Breast+Cancer+Survivors+Who+Were+Treated+With+CMF+Chemotherapy+May+Have+Subtle+Long-Term+Cognitive+Difficulties

乳癌ガイド:http://www.cancer.net/patient/Cancer+Types/Breast+Cancer

化学療法の副作用:http://www.cancer.net/patient/All+About+Cancer/Cancer.Net+Feature+Articles/Side+Effects/Side+Effects+of+Chemotherapy

認知障害:http://www.cancer.net/patient/All+About+Cancer/Treating+Cancer/Managing+Side+Effects/Cognitive+Problems

長期の影響:http://www.cancer.net/patient/Survivorship/Late+Effects

サバイバーシップ:http://www.cancer.net/patient/Survivorship

Journal of Clinical Oncology誌は、癌患者を治療する医師を代表する世界有数の専門家協会であるアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)が3カ月毎に発行している、論文審査のある学術誌である。 ニュース報道には必ずTHE JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY誌への帰属明示が必要。 # # #

翻訳担当者 遠藤豊子

監修 原野謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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原文掲載日 

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