アバスチン治療後の動脈血栓塞栓事象のリスクが確定される

キャンサーコンサルタンツ
2007年9月

5つのランダム化試験に関わった研究者は、アバスチン(ベバシズマブ)と化学療法を併用した転移性結腸直腸癌、乳癌、非小細胞肺癌の治療では、化学療法単独での治療より動脈血栓塞栓症事象のリスクが増加すると報告した。この結果はJournal of the National Cancer Institute誌2007年8月15日号に発表された。

アバスチンは血管内皮増殖因子(VEGF)として知られるタンパク質を阻害する薬剤である。VEGFは新生血管の成長を促進する。VEGFを阻害する薬剤は癌細胞の成長を遅らせたり、阻止したりする。さらに、VEGF阻害薬は血液供給を正常化させて抗癌剤が癌細胞に行き渡りやすくする。臨床試験ではアバスチンと化学療法の併用は、ある種の転移性癌患者の生存率を改善することが示されているが、中にはこの併用治療が動脈血栓塞栓症事象のリスクを高める可能性があることも示唆する試験もある。2004年8月、米国食品医薬品局(FDA)とジェネンテック社は脳血管障害、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、アバスチンに関連した狭心症を含む重篤な動脈血栓塞栓症事象のリスク増大のエビデンスがあると医療従事者に重要な薬剤警告を発行した。致命的な動脈血栓塞栓症事象のリスクも増大する。

アバスチンと化学療法で治療を行った患者の血栓塞栓症リスクについて追加情報を提供するため、研究者は5つの臨床試験の情報を集約した。これらの試験には計1,745名の転移性結腸直腸癌、乳癌、非小細胞肺癌患者が登録された。アバスチンと化学療法の併用例と化学療法単独例とが各試験で比較された。

患者は狭心症、動脈血栓症、脳梗塞、脳虚血、脳血管障害、心筋梗塞、心筋虚血を含む動脈血栓塞栓症事象について検討された。

●動脈血栓塞栓症事象のリスクは、化学療法単独で治療した患者では3.1/100人年、アバスチンと化学療法を併用して治療した患者では5.5/100人年であった。

●動脈血栓塞栓症事象のリスクを増大させる他の因子は、高齢(65歳以上)と動脈血栓の病歴であった。

●静脈血栓のリスクはアバスチンと化学療法を併用して治療を行った患者では増大しなかった。

●アバスチン投与患者と非投与患者において、アスピリンによって出血が増大し、その発生率はアバスチン投与群でわずかに高いことが観察された。

研究者は、化学療法単独例と比較して、化学療法とアバスチンの併用は動脈血栓リスクを増大させると結論づけた。

コメント

本データは、FDAによる懸念をもたらし、標識の変更に至った2004年の発表と同様のものであり、アバスチン治療のリスクと利点について患者に助言するのに役立つ。

参考文献

Scappaticci FA, Skillings JR, Holden SN, et al. Arterial thromboembolic events in patients with metastatic carcinoma treated with chemotherapy and bevacizumab. Journal of the National Cancer Institute. 2007; 99:1232-9.

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翻訳担当者 吉田 加奈子

監修 平 栄(放射線腫瘍科)

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